2013年8月12日月曜日

『これからの大井は“日本の夜を制する”』大井競馬(2)

 ナイターを彩るカクテル光線、女性演奏者による生ファンファーレ、内馬場ではドイツビール片手に競馬観戦、そして、思い出の帝王賞当日に、地方中央で活躍したボンネビルレコードが誘導馬デビュー。競馬をより楽しめる仕掛けが続々…、そこから見えてくる、大井競馬のビジネスモデルとは。そして、大井競馬が目論む次なる一手とは。(8/5公開Part1の続き、今週のゲスト:斉藤弘開催執務委員長、聞き手:赤見千尋さん)
赤見 :大井と言えば、何と言ってもナイター競馬。内馬場で開催中の「オクトーバーフェスト2013」、ビール片手に競馬観戦なんて、海外競馬のようですよね。あと、女性演奏者の生ファンファーレ。あれも人気が高いですね。細かいところまで工夫されていて、ワクワクします。
斉藤 :こういう空間での生の音って、体にジーンと響くんですよね。そういうところもいいんじゃないかなと思って、ずっと続けているんですよね。
赤見 :そういうアイデアはどうやって出てくるんですか?
斉藤 :ちょっと深い話になりますが、うちのビジネスモデルというのは「競馬+夜のエンターテイメント」だと思っています。昭和61年にトゥインクルレースを始めたんですが、ただ夜に競馬をやるのではなく、「競馬」と「夜のエンターテイメント」の融合が、うちのビジネスモデルだと考えたんですね。今広告では「TOKYO TWINKLE」と表現しています。ビジネスモデルっていろいろあると思いますが、恐らくこういうものは、日本ではうちしかないだろうなと思っています。
そうすると、競馬場での興行と考えた時に、「面白いレースを作ること」と「それをどう見せて行くのか」という2つを考えて行くのが基本だと思います。
生ファンファーレについても、「どういう見せ方がいいのか」という発想から出てきたものですね。もともとは、サンタアニタ競馬場のファンファーレをヒントにうちでも始めたんですけど、変な話、最初はうちの職員の中から、トランペットとかが吹ける職員を集めてやっていたんです。
赤見 :えっ()? 楽器が出来る方を募って!?
斉藤 :そうそう。うちの職員やその知り合いの方を集めて、そこから始まって演出もいろいろと考えて、最近では「東京トゥインクルファンファーレ」といって、女性演奏者5名での生ファンファーレという形で定着しています。
赤見 :あの人数で、あのクオリティはなかなかないですよね。「本当に生なのかな!?」って、近くに見に行っちゃうぐらいです。
あと、個人的にもうれしかったのが、今年の帝王賞でボンネビルレコードが誘導馬デビューをしたことです。あいにくの大雨でしたけど、そんなの関係ないくらい、「ボンちゃん、ボンちゃん」って声援がすごかったです。愛されていますよね。引退した後も近くで会えるってなかなかないですし、誘導している姿がまたかっこいいですよね。
斉藤 :ええ。本当に絵になりますよね。誘導馬になることをオーナーが許可してくださって、また、あれだけの短期間でよくあそこまで。去年の12月まで現役で走っていて、そこから半年で誘導馬デビューですからね。頭の良い馬ですし、誘導馬担当がよく育ててくれましたよね。

うちにとっては、宝みたいな馬なんですよね。その馬が誘導馬になってくれるという。そこで我々としては、帝王賞でデビューさせたいというのが第一目標でした。それが本当に実現できて、素晴らしいなと思っています。
誘導馬に関しても、ナイターの初めからいろいろと考えてきました。最初に導入したのが、カクテル光線に映える馬ということで、パロミノ種という、光があたった時に金色に光る馬を探してきたんです。それからもいろいろとやって来た中で、今回のボンネビルレコードの誘導馬デビューだったんです。
赤見 :やっぱり「ナイターをどう見せるか」というのが、一番大きなテーマなんですね。イルミネーションにもこだわっていますよね。
斉藤 :競馬場ってね、本当に広いんですよ。だから、イルミネーションもちょっとやっただけでは、どうしようもない。ある程度の規模でやらないと、映えないんですよね。だから、経費はかかる(苦笑)。だけど、それが無くなっちゃったら、つまらないですしね。
赤見 :ただ馬券を買いに来るというだけじゃなく、仕事帰りのデートスポットみたいな感じでも定着しているじゃないですか。やっぱり、ナイター独特の雰囲気は違いますよね。
斉藤 :そうですね。これまで「東京の夜」という形で競馬を展開して来たんですけれども、ご承知の通り今は、競馬場に来てくださるお客様が少なくなっているのは事実なんですよ。
でも、インターネットで馬券を買ってくださる。そのために我々としても、なるべく無料で映像が見られるように、情報をすぐ得られるようにと工夫して来たわけです。そういうこともあって、インターネットで馬券が身近に買えるようになった。それが競馬場の来場者に影響があったのは事実だと思うんですが、インターネットも含めた1日の利用者は年々増えているんですよね。そういう政策を取って来たわけですから、そこはトータルで考えなくてはいけないですよね。
赤見 :インターネットなら、全国の方が馬券を買えますしね。
斉藤 :そうです。そこで、大げさな言い方ですけど、「これからの大井は“日本の夜を制する”」ということで考えています。日本の夜の1つのエンターテイメントとして、インターネットを通じて競馬を楽しんでいただこうと。「東京の夜」から、次は「日本の夜」という形で、遊びを提供して行きたいなと思っています。
赤見 :「日本の夜を制する」、かっこいいですね。
「東京の夜」から「日本の夜」を制する
斉藤 :そのために今度は、本場だけではなくインターネットでどう見せるかということを、次の段階として考えて行かなくてはいけないです。それは当然、良い馬なり面白いレースなりを作るということでもあります。
赤見 :そのために考えられていることがあるんですか?
斉藤 :まずは、番組の工夫ということをやっています。例えば、ただ「2歳」「3歳」ではなくて、「3歳の300万」とか、どんな馬が走っているかわかりやすいようなレース名を作っています。あとは、同じC級の中でも距離別とか、5歳戦6歳戦という年齢別であったりとか、そういうふうに分けることを考えています。
赤見 :お客様にわかりやすい番組を作っていくという。
斉藤 :そこまで大きなことには見えないかもしれませんが、競馬って、どんなに質の良い馬がたくさんいても、ピラミッドなんですよ。下級条件があって、トップがある。そうすると、下級条件ほどたくさんの馬がいるわけですね。でも、そのクラスのレースも、GIの東京大賞典も、同じ一つのレースです。そこをお客様にどう見ていただくかということを、真剣に考えなくてはいけないと思っているんです。
そこを試行錯誤しているのが一つと、もう一つは大井の強い馬を作りたいと思っています。我々主催者ではなかなか直接はできないところがあるので、少しでも大井に良い馬を入れていただいたり、「大井で勝とう」という意識を持っていただくためにどうしたらいいのかなと。
それで今年は、2歳戦3歳戦の重賞や準重賞を勝った大井の生え抜き馬への、ボーナス制度を作りました。このように番組の制度を作ったり、強い馬を作ったりということを、ある程度長いスパンで考えながら、日本の夜という中で大井競馬を楽しんでいただける時期がいずれ来るだろうなというふうに思っているんですけどね。
赤見 :すごいですね。
斉藤 :まあ、この問題については、すぐに結果というのは難しいですけどね。でも、諦めたら終わりですので。良い悪いではなくて、まずはやってみるということから始めて、それがいつか花が咲くかもしれない、というふうに思っています。
赤見 :先ほど「立ち止まったら終わり」というお言葉がありましたが、大井の精神はそこなんだなと思いました。
斉藤 :そのためには「ALL大井の精神」で、主催者だけでやっているんではないんだよ、と。馬主も、騎手も、トレーナーも、厩務員も、携わっている人みんなでやっているんだという意識を持つために、例えば「お客様感謝デー」などを、みんなでお客様に感謝をしようということで行ったりしています。そうすることで、関係者がよりまとまるところがあるのかなと。
赤見 :やっぱり11人の意識が、すごく大事なんですね。
斉藤 :先ほどのインターネットの話がありましたが、最近の実感として、若い方と女性がまた増えているのではないかなと。特に女性は、連れてきてもらったというのではなくて、女性同士で自らカメラを持って来ていただいている方がすごく増えているように思います。香里奈さんの効果かもしれないですけどね。
赤見 :香里奈さんのCM、いいですよね。若い方に来ていただくのは、活気が出ますね。
斉藤 :そうですね。これからは、次世代のお客様を増やしていかないと難しいなと思っています。今の直接のターゲットというのは40代、50代、60代なのかもしれない。でも、10年先20年先を見た時に、若い方に競馬を経験していただくというのは必要だと思っています。
JRA
が、初心者向けの競馬教室を開いたり、エヴァンゲリオンとのコラボをしたり、いろいろな形でされていますよね。将来的な競馬を考えて、若い方に関心を持ってもらいたいというところが見えるので、そこは大井も協力して、同じ方向に向かってやって行こうと、今一生懸命やっているところです。
赤見 JRAとも協力して、競馬の将来のために。
斉藤 JRAもインターネット投票が5060%、大井ももう40%ぐらいになっています。この方たちにしっかり競馬を楽しんでいただきたい、そして、新しくファンになってもらう方も増やす、そこは真剣に考えて行かないといけないですよね。そうしないと、競馬自体が無くなってしまうかもしれない。赤見さんは実感されたと思いますが、そう考えると、さみしいですからね。やっぱり、競馬っていいと思うんですよ。
赤見 :本当に、競馬っていいですよね。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
斉藤 :みなさんぜひ、大井を応援してください。(Net-keiba.com)

2013年8月6日火曜日

標高1600メートルの草競馬に8000人が熱狂

高ボッチ高原では全国から集まった
腕自慢による熱戦が繰り広げられた

 中央競馬で2つの重賞が行われていた4日、長野県塩尻市の高ボッチ高原(標高約1600メートル)で、日本最高峰の草競馬「高ボッチ高原観光草競馬」の第60回記念大会が行われた。長野以外にも愛知や三重など、全国から93頭のサラブレッドとポニーがエントリー。ディープインパクト産駒のソルデマーヨなど元競走馬が多数登場した上、小学生を含む一般参加者に交じってプロ騎手も参加。1周約400メートルの手作りダートコースで熱戦を繰り広げた。 野草と森林に覆われた標高1600メートルの高原にも、人々を熱狂させる競馬があった。開会式直前の午前8時半時点で約500台収容の駐車場はほぼ満車。丸太でできた外ラチは大観衆に覆われ、逆走するポニーで笑いが起こり、ゴール前の接戦では「差せ!」と中央競馬さながらの歓声が飛んだ。サラブレッド、ポニー、中間種の27レース。最終的に同日の函館競馬を上回る約8000人が来場した。 戦後間もない1952年(昭27)に、農家の娯楽の一環として農耕馬で行われた大会も60回を数えた。節目の1日は沸きに沸いた。予選レースから、はるか前方の一般参加者を強烈な追い出しで猛追する赤黒縦じま、青袖の勝負服が登場。観客席から「誰? 誰?」のざわめきを浴びた主は、金沢競馬リーディングの吉原寛人騎手(29)。「金沢で指導している『ちびうま団』の子とポニーが出場するので来ました。草競馬は初めてですが、コーナーで馬を45度くらい倒さなきゃいけないコースも雰囲気も全部楽しいです」と全力騎乗で会場を盛り上げた。 川崎競馬からも佐藤博紀(34)郷間勇太(24)田中涼(19)の各騎手が参戦。最終レースを勝ったのも、高知競馬でハルウララの主戦を務めていた古川文貴元騎手(35)だった。「引退後は飲食店に勤務したんですが、馬に乗りたくて三重の牧場に転職し、今は全国の草競馬で乗っています。こんな山の上で競馬をやるので驚きましたが、アップダウンが激しく面白い。来年も来たいですね」と意欲を見せる。 一般参加者も負けてはいない。メーンレースのひとつ、塩尻市観光協会会長賞(2000メートル)では、愛知県知多郡の大学1年生、深谷健太さん(19)が逃げる吉原騎手をゴール前で競り落として優勝した。「相手があの吉原さんだったので、一生の思い出になりました」と会心のガッツポーズ。日頃は地域の祭りを中心に馬に乗る草競馬騎手。「9月29日に地元でおまんと(駆け馬)祭りがあるので、そっちも頑張ります!」と笑顔がはじけた。 参加者には畜産農家も含まれるが、大半は会社員などの傍らに趣味で馬を管理する個人オーナー。ポニーの陸くん(せん7)と愛知県から来場した木場田義政さん(64)は「普段は河川敷で走らせているから、こうして思い切り走らせてあげるのが何よりの楽しみ。毎年、ここに来ないと盆が来ないよ」と語る。塩尻市経済事業部ブランド観光課の小嶋正則課長(57)は「一時は衰退もしましたが、馬主のみなさんの協力があっての60回。ありがたいです」と頭を下げる。優勝賞金はなく、配られるのは名産のワインなど。それでも名誉と喜びを感じるために、毎年馬運車に愛馬を乗せ、全国から参加者が集う。標高1マイルの高地にも、確かな“競馬”が根付いている。(日刊スポーツ)

2013年8月5日月曜日

『“大井のDNA”我々は立ち止まってはいけない』大井競馬(1)

斉藤弘開催執務委員長

 地方競馬の中心的存在、大井競競馬。1986年、全公営競技初のナイター開催をはじめ、馬券の三連単・三連複をいち早く導入したり、東京大賞典を地方競馬初の国際GIとしたりと、動きの速さと積極的な戦略が目を引きます。地方競馬のリーダーとして、ひいては競馬界の先導役として、どんなポリシーを持っているのか。受け継がれる「大井のDNA」に迫ります。(今週のゲスト:斉藤弘開催執務委員長、聞き手:赤見千尋さん)


赤見 :斉藤さんは大井競馬の「開催執務委員長」でいらっしゃいますが、具体的にはどんなことをされているのですか? 
大井・斉藤弘開催執務委員長
斉藤 :開催の時はレースの進行をはじめ、全ての状況を把握して、レースが滞りなく行われるように、いつも緊張してレースを迎えています。委員長は一番権限を持ってはいるんですけれども、そうは言っても開催時は即座に判断しなければならないものが多い。落馬の問題、審判の問題、払戻の問題など、全てを委員長権限でやっていると、迅速に対応できなくなってしまうんですね。
 それで「開催執務員制度」というものがありまして、番組委員、採決委員、審判委員、投票委員なりに権限を持たせて、最終的な責任を私が持つというふうにやっています。

赤見 :じゃあ、大きな意味で統括されているという。
斉藤 :そうですね。例えば大雨で馬場が冠水してしまって、競馬を続行するのかなどの問題については、委員長判断で中止にしたりします。

赤見 :そういう体制があって、競馬運営が円滑に行われているんですね。さて、今回は「主催者としての大井競馬」をテーマにお話を伺っていきたいと思います。
大井競馬は、日本初のナイターの導入をはじめ、三連単・三連複の馬券をいち早く採り入れたり、最近では大ヒットドラマ「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ系列)の篠原涼子さん、三浦春馬さん、藤木直人さんによる豪華なイベントなど、インパクトのあることを次々と実行されていますよね。それには、どんなポリシーがあるのでしょうか?
斉藤 :我々は、競馬を「興行」だと捉えているんですね。そのために「いつも動いていないと止まってしまう」という意識が、大井の場合には強いのかなと思います。常に物事を考えて新しい物を採り入れて行く、というのがうちのやり方。よく「大井のDNA」と言われますが、そういうものがありますね。
それは何でかと言うと、良い悪いは別にして、日本の競馬は「JRA」と「地方競馬」の2つに分かれているわけですが、JRAが中心になっていくのは、それは当然だと思います。ただ、JRAと地方競馬の両方で日本の競馬が成り立っている以上、我々の存在意義というのも当然あると思っているわけです。
JRAはあれだけ組織が大きいので、何か物事を変えて行くときには、相当の労力なりが必要になる。でも大井の場合には、それよりも組織が小さいというのもあって、比較的動きやすい。そういう意味で、変な話ですけれども、日本の競馬で新しい方向性があったときに、大井が先陣を切って「こういうことはどうだろう」「日本の競馬においていいのだろうか」と、そういうことができる。そういう役割を担っているのかなと思っています。
斉藤 :そうですね。お客様に常に新しいことを提示していくという意識、そして組織がコンパクトで動きやすいということ。この2つが、大井が今まで動いて来た理由だと思っています。
赤見 :競馬の組織って閉鎖された世界というイメージが強いので、常に新しい物を展開して行く精神を維持し続けるのが難しいように感じるんですが?
斉藤 1つには、我々は公務員という立場ではありますが、競馬に携わっている職員全てが「自らやって行くんだ」という意識が強いと思います。例えば、形だけの馬場を監視する部門ということではなくて、組織としてちゃんとそういう部門があって、そこに職員が張り付いて、自らの手で本当の競馬運営をしている。
競馬を開催する以上、1から10まで組織としてできることが、競馬組合としての理想でしたので、そのために職員も育成して来ました。そういう組織の中で、各部署からいろいろなアイデアや意見が出るようになりましたし、それを実行まで結び付けて行く力がついたのかなと思います。
赤見 :ここ最近、国際化の流れを大井さんは作ろうとされているのかなと感じるのですが、その辺りはいかがですか?
斉藤 :国際化については、むしろこれからなのかもしれないですが、日本の競馬はレベルが相当高いですし、日本だけでというのはもったいない。また、日本の中で競馬が成り立って行くために、生産界ということも考えなくてはいけないと思っています。
生産界が成り立つためには、国内だけではなく広い範囲の中で、生産というものを生かすことが必要だと思います。そういう面でJRAを中心にしながら、大井も、競馬を国際標準に押し上げて行くことによって、競馬自体の質も上がっていくでしょうし、日本の競馬を知ってもらえるようにもなる。それを生産界にも還元できれば、国内における競馬はさらに振興していけるのではないかと思います。
ご承知の通り、地方競馬自体が非常に厳しく、残念ですけれども廃止して行く状況というのがあります。そうなると、当然のごとく馬の生産規模というのも縮小していく形になり、それを国内だけで拡大していくのはなかなか難しい。かといって、このまま縮小していくのは、JRAにとっても大井にとっても良いことではないですので、少しでも良くするために、幅広い目を持っていく必要があると思います。
2011年より、地方競馬初の国際競走として実施されている。
斉藤 :一番難しいのは検疫の問題でした。各国でルールが違うので、お互いのルールに合わせながら施設環境を整えて行く。そういうハード面の難しさがありましたね。
実際には、那須の地方競馬教養センターとうちの小林分場に検疫厩舎を作りました。そういう施設を自らが持っていないと、国際レースの許可が下りないわけですが、やっぱり我々のような地方競馬では、そういう面を整えるのはなかなか難しかったですね。
赤見 :かかる費用も膨大ですし。そういうところをクリアして、国際レースの格付けを得て。
斉藤 :そうですね。いずれは東京大賞典に、海外の有力な馬に参戦してもらいたい。それには、ある程度国際レースに慣れておかなくてはいけないということがあります。
うちはアメリカのサンタアニタ競馬場と提携しているので、一昨年のサンタアニタトロフィーではアメリカの馬に参戦してもらいました()。うちの職員自ら帯同して、検疫から何から全部行いました。本格的な国際化に向けての準備行為ということですね。
2011年に国際招待競走として施行され、アメリカのレッドアラートデイが参戦した。
また、韓国からも国際交流のお話をいただいて、それが今年実現します。91日に大井の馬が韓国へ、11月には韓国から大井に来てもらいます。そういう経験を積むことで、うちの職員も国際レースに慣れていける。そして最終的には、東京大賞典を本格的な国際レースとして行きたいと思っています。
赤見 :最大目標のために、11つ階段を上がっているところなんですね。
斉藤 :そうですね。国際レースになったのが第1段階で、第2段階として海外と行き来できるようにする。その経験を踏まえ、最終的には海外の良い馬が参戦してくれる環境、安心して大井で出走してくれる環境を作り、PRもして、「ぜひ大井に来てください」という形になって行くのかなと。目標に向かって着実に、きっちりやって行きたいと思っています。
赤見 :今年の秋は、オルフェーヴルとキズナが凱旋門賞に挑みます。そういう芝の大きなレースはJRA、そしてダートは大井が日本を先導していくというような構造になっていくかもしれないですね。
斉藤 JRAともそういう話はしているんです。「芝はお願いします、ダートは任せてください」というぐらいになりたいですね。
赤見 :そう考えると、ダート競馬のアメリカが重要な存在になっていくのかなと思いますが、そのためにコースの改修というお考えはありますか? アメリカは左回りの競馬場が多いですが、大井も左回りに変える可能性は?
斉藤 :そこは、いろいろ言われますね。右回り左回りの問題の他にも、砂質の問題などもあります。でも、「これが大井のコースであるんだ」と。世界標準として右回り左回りという決まりがあるわけではないですし、「大井はこういう形のコースで、こういう馬場でやるんですよ。その大井にぜひ来てください」と、ちょっと偉そうな言い方ではありますが、そういうふうにしてもいいのかなとは思っているんです。
赤見 :以前「馬場をポリトラックにする」という噂がありましたが?
斉藤 :ポリトラックについては、相当な研究なり試験なりをしなければいけないので、なかなか大井単独ではできないところがあります。それでJRAと一緒に、検討や研究をしています。実際に美浦トレセンのポリトラックを見せていただいたり、うちも小林分場の坂路にポリトラックを入れて厚さや摩耗の問題を研究したりと、いろいろなことをやっています。
斉藤 :さっき言ったように、我々は常に動き、立ち止まったらお終いだと思っています。そういう意識があるから、広報にしても競走部門にしても、職員全員が一生懸命やっているのかなと。ちょっと自慢ですけどね(照笑)
赤見 :いえいえ。でも、これだけ地方がバタバタと廃止になって、その先頭を走り続け、背負い続けるというのも大変だと思います。
斉藤 :大井が地方競馬を支えなくてはいけないという自負は、やっぱりありますよ。そのためには、例えば広域発売だとか、そういうことをやっていかないといけない。大井は何と言っても、立地条件に恵まれています。
赤見 :東京23区内にある、唯一の競馬場ですね。
斉藤 :ええ。こんなに後背人口が多い中で、また首都圏という中で競馬が出来る。こんな競馬場は、世界にしたって珍しいと思うんですね。大井の実力以上に、やっぱり立地条件がありますよ。それを生かした形で地方競馬を支えることは、当然のごとくやって行かなくてはいけないと思っています。
ただ、地方競馬の各主催者が「自分たちの競馬をどうするのか」というところを、しっかりと持っていてほしいです。広域発売にしても、ただ売ればいいというものではない。専門紙であったり映像であったり、お客様に対して一定の情報提供ができる、最低限そういうものがないと厳しいですよね。何でもかんでも売ればいいという考え方では、崩れてしまうと思っています。
赤見 :斉藤さんは大井競馬の「開催執務委員長」でいらっしゃいますが、具体的にはどんなことをされているのですか? 
大井・斉藤弘開催執務委員長
斉藤 :開催の時はレースの進行をはじめ、全ての状況を把握して、レースが滞りなく行われるように、いつも緊張してレースを迎えています。委員長は一番権限を持ってはいるんですけれども、そうは言っても開催時は即座に判断しなければならないものが多い。落馬の問題、審判の問題、払戻の問題など、全てを委員長権限でやっていると、迅速に対応できなくなってしまうんですね。
赤見 :機動力が大きな武器ですね。
国際GIとなった2011年東京大賞典
赤見 :一昨年に東京大賞典が国際GIとなりましたが()、国際化にあたって難しかったことはありますか?
全天候馬場は日本の競馬を変えるかもしれない。全天候馬場というのは、今ある芝・ダートとは別世界のもので、もしかしたら非常におもしろい馬場になる可能性があると。芝適性がある馬とダート適性がある馬が、一緒に競走できるかもしれない。これが本当に成功したならば、全天候馬場は、日本の競馬を変える可能性があると思っています。だからこそ、しっかりと研究をしてやっていきたいなと。決して諦めたことではなくて、いい加減にやることは出来ないと思っています。
赤見 :本当にいろんな方向で、先を見据えていらっしゃるんですね。(Net-Keiba.com)