今年の皐月賞Vなど日本でGIレースを勝ちまくっているミルコ・デムーロ騎手(34)が、10月に行われるJRA騎手免許試験にチャレンジする。JRAの“規制緩和”で外国人にもライセンスの門戸が開放された結果、日本大好きなイタリアンの熱望がかなった。とはいえ、名声と実績を誇る海外の超一流ジョッキーがなぜ今、ジャパン騎手免許に挑戦なのか。
■「日本のジョッキーになりたい」
デムーロ騎手といえば、今年の皐月賞をロゴタイプで勝っている当代きってのスゴ腕。JRAのGIは通算で9勝しているし、短期免許をめいっぱいに使って、トータルで330勝を誇る名実ともにトップ騎手だ。もちろん母国イタリアでもそう。
それが中年になってからのジャパン騎手試験へ志願とはびっくり。「難解なテストということはもちろん分かっているよ。でも、一生懸命勉強して、なんとしても合格し、日本のジョッキーになりたい」という。
■なぜ、日本へ“熱烈移籍”なのか?
端的にいってしまえば、母国を捨てて日本に引っ越してきても十分に「ペイ」できると、ソロバンを弾いたということ。JRAは賞金額が大きく、しかも自分にとって“水のあう”舞台で、免許取得で騎乗レースを増やせばもっと稼げる、との計算が働いてもおかしくない。
■弟も来日し出稼ぎ中 もうかるぞ
2年前、世界最高峰のドバイワールドCを日本調教馬が勝利している(ヴィクトワールピサ)が、その手綱を握っていたのが同騎手だった。世界舞台に挑戦する日本の代表馬を任されたわけで、馬主や調教師からの信頼は並大抵ではない。
もちろん、15年連続して来日騎乗している同騎手にとって「ジャパン・ラブ」は当然あるだろう。しかし、ジョッキーにとって拠点国のチョイスは商売上の最重要事であり、現在の同騎手の拠点はフランス。好き嫌いで決めたわけでは…もちろん、ないはずだ。
同騎手の実弟クリスチャン・デムーロ騎手も2年前から短期免許を繰り返し取得し、日本で騎乗し勝ちまくっている。妹のパメラ・デムーロも元騎手(現調教師)という競馬家系が、伊達や酔狂で移籍は考えないだろう。
ここまで実績を積み上げてくれば、騎乗馬を探すのに苦労することはない。依頼されるのは超一流馬ばかり。さらに同騎手は常々こう言っている。「日本の競馬はスマートでラフプレーも少なく大好きだ」。
ここらにもジャパン・ラブがうかがえるが、うがった見方をすれば、日本人騎手は自分のレースを邪魔するようなラフな乗り方をしないから、くみしやすいという意味でもある。
■騎手ほどおいしい商売はない?
先月、元調教師の内藤繁春氏が82歳で亡くなった。1991年の有馬記念を大伏兵、ダイユウサクで勝ったことでも有名だったが、それ以上にファンに思い出深いのは、調教師を引退する直前の2000年、69歳のときに、突然騎手試験を受けると言いだし、実際に受験してしまったことだろう。
当時の受験要項には最低年齢はあっても、最高年齢の制限はなかったため、JRAもしぶしぶ受験を認めた。残念ながら不合格。落とされたのが筆記だったのか、それとも実技(騎乗試験)だったのか公表はされていないが、当人は生前「筆記試験が難しかった。やはり年寄りには無理だった」とこぼしていた。
名声なった調教師が、70歳を目前にしても続けたい
と思うほど競馬の世界はうまみがあるということであり(現在は事情が違うが)、そして騎手試験は日本人にも高いハードルだということでもある。
ミルコ・デムーロ騎手は来月2日の1次試験(筆記)へ向けて、すでに来日して受験勉強を始めているそう。
筆記試験は英語で受験できるようになったけれど、2次の面接試験は日本語での対応が求められる。「競走騎乗全般に関する知識」ということは、競馬法や学術用語など高いレベルが問われる。けれど、競馬関係者によると、ほぼ合格は見えたとか。JRAにも色んな事情はあるのだろうけれど…それにしてもねえ。
世界的に見ても飛び抜けて賞金レベルの高いジャパン競馬。これまでも各国のトップジョッキーが荒稼ぎしていったが、最高3カ月の短期免許がネックになって「席巻」までにはならなかった。
しかし、免許取得可能となれば事情が違う。せっかく日本調教馬が世界レベルまで育ってきたのに、鞍上に外国人ばかりとなってしまいそうな雲行き。寂しい限りだ。(産経ニュース)