|
馬術部の(左から)宮越さん、志賀さん、 富永さんらにかわいがられながら、 障害馬術の全国大会を目指すモチ =愛知県豊橋市の愛知大豊橋キャンパスで(西田直晃撮影) |
競馬のG1、皐月賞にも出走した元競走馬のモチ(牡、十歳)が、愛知大馬術部(愛知県豊橋市)で第二の“馬生”を送っている。現役時代は「モチ粘る」の実況がファンの笑いを誘い、「粘度代表馬」の愛称で親しまれた。大レースは一度も勝てなかったが、学生を背に乗せ、障害馬術の全国大会を目指して奮闘中だ。
五〇〇キロの青鹿毛(あおかげ)の馬体が揺れる。十月下旬、愛知県尾張旭市で開かれた愛知学生自馬競技会。コンビを組む三年、富永ゆかさん(22)とともに、高さ九十センチの障害を次々に跳び越えていく。三位の好成績に、森修監督(70)は「二年半かけてやっと形になった。来年が楽しみ」とほほ笑んだ。
モチは二〇〇六年十月に中央競馬でデビューし、年明けに二連勝。先行馬で序盤から好位に着けて、ともに逃げ切った。皐月賞は十七着に終わり、その後は一勝しただけで一一年に七歳で引退したが、「粘るモチ」は語り草になった。動画サイト「ユーチューブ」に投稿された「粘りに粘るモチ」の実況中継は、これまでの再生回数が六万回を超える。
引退後、県内の牧場に引き取られ、一二年五月に愛知大にやって来た。当初は苦難の連続。最初に手綱を握った四年、宮越舞さん(22)は「突然ものすごい勢いで走りだして驚いた。カーブで振り落とされたこともある」。競走馬として調教を積まれたため、興奮するとすぐ全速力に。一年前の大会でも、競技中に勝手に走ってしまい、以降は調教漬けの日々を過ごした。
毎日一時間、高さ三十センチに設置した丸太を跳ぶ基本動作を続け、走りたがるくせは次第に影を潜めた。部員ともうち解けていく。四年、志賀美咲さん(21)は「モチは女子が大好き。私たちにはおとなしく甘えるけど、男子が来ると背伸びをして威嚇します」と笑う。
目指すのは競走馬時代の皐月賞と同じ最高峰への挑戦。全国大会出場には、高さ百三十センチの障害を跳び越えねばならず、「この冬のトレーニング次第」(森監督)という。
モチのほか、「オレハマッテルゼ」など個性的な馬名を付けることで知られる現役時代の馬主、小田切有一さん(71)は「逃げたら粘り、追い込んだら伸びるという意味を込めて名付けた馬。馬術でも粘り強い戦いを見せて」と応援している。(中日新聞)