日本で2009年秋から海外居住者にも門戸を開いた、外国人馬主制度がスタートしてから今日まで、7人の方が外国人馬主として日本の競馬に参戦しています。その中の1人にオーストラリア人第一号となる馬主がいます。建設業などを営むフィル・スライさんです。
母国オーストラリアでは常に70-80頭の競走馬を所有し、中でもG1・4勝、豪G1クラウンオークス(芝2500)では9馬身差で逃げ切った話題の牝馬、Mosheen(モシーン)も所有しています。 フィルさんはスポーツが大好きな内側からエネルギーの溢れる方でした。今の楽しみは、メルボルンカップを勝つこと、日本のG1レースで優勝すること、そして日本で繁殖馬になることが決まっているモシーンとディープインパクトの子を見ることなんだと笑顔で語るその裏側には、想像も出来ないドラマがたくさんあったのです。―オーストラリア人として第一号の海外馬主資格を取得されたわけですが、申請してから馬主になるまで、やはり大変でしたか? 「ここまでくるのにちょうど1年かかったな。細かい手続きなどは大変で進んだかと思ったら、また後ろに下がったりしたこともあったけど、オーストラリア政府もJRAもとても協力的で本当に助かったし感謝しているよ」
―日本にて馬主になろうと思ったきっかけはなんだったのですか? 「去年のセレクトセールに行ったのが考えるきっかけとなり、そこで詳細をJRAの方に聞くと、とても丁寧に教えてくれたんだよ。聞いた上でなれそうだなと思い、本格的に手続きをし始めたんだ。夢でもあったから嬉しいね」 ―その時に1頭、ビアンカシェボン(美浦・堀厩舎)を購入され、今年デビュー予定ですね! 「そうなんだよ。順調に行ってくれるといいな。日本の競馬はテレビで何年も何年も観戦していたけど、まだ生で観戦したことがないから、早く自分の馬が走っている姿を見たいね」 ―日本の競馬にはどんな印象を持たれていますか? 「こっち(オーストラリア)では、もっと馬にプレッシャーを与えているし、すぐに結果を求めがちなんだけど、日本のレースにそういうプレッシャーを感じたことがないね。焦るよりもゆっくりじっくりと馬を育てる、レースに向かわせる感じかな。確かにそれって時間がかかるかもしれない。コストもこちらと比べたらよりかかるかもしれない。だけど僕はそのやり方にいい印象を持っているし賞金もかなり高いから、たとえゆっくりでもコストが多少かかっても問題ないよ。あ、あとお客さんに酔っ払いは少ないよね(笑)」 ―それはもうメルボルンに比べたらそうですよ(笑い)国内でも馬への接し方が丁寧を飛び越え神経質なんじゃないかという言葉も出ていたので、こんな風に海外の方から 日本の関係者の方達のやり方をほめていただけるのはとても嬉しいです!フィルさんにとって日本競馬の魅力とはなんですか? 「G1レースや重賞レースの豊富さに加え、どのレースもとてもいいレースだよね。そして何より競り合っていて力強いよ。それが少人数のレースであろうがなんだろうがね。それに人にも馬にも優しくて丁寧で、日本競馬もそうだけど日本も日本人も大好きなんだよ。資格をとれたことで今後、どんな楽しいことが待ち受け ているのだろう、どんな人達と出会うのだろう、そしてその人たちとわかりあったりすることも今から楽しみで仕方ない!」 ―そう言っていただけるなんてありがたいです!そういえばモシーンの権利の50%をノーザンファーム代表の吉田勝己さんが所有されてますよね?それはどうしてだったのですか? 「日本文化には分け合うというのがあるでしょう。僕も分け合うことが大好きなんだよ。ある日、色々とよくしてくれた勝己に何かできないかなって考えて、そこで浮かんだのがモシーンの権利を半分渡すこと。僕にとって勝己はビジネスの枠を超えた親友なんだ!」
海外馬主制度を通じて国境を越え、深い絆が生まれたフィル・スライさんと吉田勝己さん。そして繋がりが深まったオーストラリアと日本。楽しそうにそして嬉しそうに夢を語ってくださったフィルさんは実は2年前にがんを患いました。手術も何度か受け、あらゆる治療も受け無事克服したのですがその 後、がんは体に転移してゆき、今まさに肺がんと戦っています。相当苦しいはずなのに、そんな姿は微塵も出さず、その目の先にあるのは常に未来と夢だけでした。そしてフィルさんはこう言うのです。 「僕は負けないよ、いつだって強くいたい。戦っていきたい。僕の馬達のようにね」と。(スポニチ)