2013年6月11日火曜日

19歳女性騎手、地方競馬救うか デビュー後早くも6勝

 名古屋市港区の名古屋競馬場で、白のハートが輝いている。4月にデビューし、ハート柄の勝負服をまとった木之前葵騎手(19)は、愛と正義のために戦うアニメのヒロイン「キューティーハニー」さながらに実力を兼ね備え、早くも6勝。苦境が続く競馬場の救世主との期待もかかる。
最終目標は「626勝上回ること」
 ファンファーレが鳴った。5日の名古屋競馬場、9頭立ての第1レース。3歳牡馬(ぼば)ボールドタイドに騎乗した木之前騎手は、スタート直後に2番手につけ、最後の直線で鮮やかに差し切り、6勝目を挙げた。2着までに入る「連対率」は、1番人気のレースでは100%だ。
 新聞で木之前騎手を知り、初めて競馬場にやってきた愛知県小牧市の住友佳奈子さん(37)は、ゴール前で声援を送った。「男性と一緒に走るとは知らなかった。男性と対等に競う場があるというのはすごくいいですね」
 4月1日現在、17の競馬場で開かれている地方競馬の騎手305人のうち、女性は7人。中央競馬の1人を含めても8人だけだ。
 名古屋競馬では、一昨年に引退した宮下瞳さんが記録した通算626勝が歴代女性騎手の最多勝。273勝で歴代4位の山本茜騎手と木之前騎手の2人が、現在の名古屋競馬での女性騎手だ。
 身長149センチ、体重46キロ。小学6年生の時、生まれ育った宮崎県の牧場の少年団に入り、競馬に触れた。栃木県地方競馬教養センターの91期生として2年間の訓練を受け、3月に騎手免許を取得。4月に全国の地方競馬でデビューした9人のうち3位の成績を収める。
 「馬にやさしい騎乗」をめざすが、筋力の弱さを痛感する。「追い合いになると、先輩の男性騎手にはまだまだ追いつきません」
 毎日、まだ夜が明けぬ午前2時半ごろから9時ごろまで、どの騎手よりも多い20~25頭ほどの調教をする。「男社会なので優しくしてもらえる」と笑うが、所属厩舎(きゅうしゃ)以外の調教師にも「乗せてほしい」と、どんどん話しかけている。
 所属厩舎の錦見勇夫調教師(65)は「課題は、スタートとコース取り。勝負の世界は一瞬の判断だが、まだまだ出来ていない」と厳しい。それでも、有力馬に騎乗させるなど期待は高い。「明るさがあって、物おじしない。一つでも多く勝ち、周りから信用される騎手になってほしい」と話す。
 同じ厩舎で、今年54勝を挙げている大畑雅章騎手(29)も感心する。「強みは鞍上(あんじょう)であわてないこと。馬が疲れないように乗っている」
 レース前、きゃりーぱみゅぱみゅの音楽を聴き、気持ちを高める。「最終目標は、宮下さんの626勝を上回る記録を作ること」と、夢は大きい。次は12日の開催で計5レースに騎乗する予定だ。
 名古屋競馬を運営する愛知県競馬組合には、木之前騎手に関するファンからの問い合わせも増えていて、勝負服と同じ柄のTシャツを作ることも検討している。
 愛知県競馬組合副管理者の大野明彦さんは「木之前効果か、女性の来場者も増えている。6日には11レース中9レースで騎乗するなど、競馬関係者の期待も高い。宮下さんを超える大騎手になってほしい」と期待する。総務広報課専門員の遠山真吾さんは「名古屋競馬にとどまらず、活動の場を広げて、地方競馬の明るい話題を提供してほしい」と話した。
赤字続き、7月に存廃含め判断
 地方自治体などが運営する地方競馬は、レジャーの多様化などで1988年以降、16カ所で姿を消した。今年3月には、アラブ馬のレースで知られた福山競馬場(広島県福山市)が廃止。残る17の地方競馬も経営に苦しんでいる。
 名古屋競馬は48年度からの累計で618億円を愛知県名古屋市豊明市に拠出し、ピーク時の74年度には単年度で67億円を分配したこともあるが、09年度以降は4年連続の実質赤字。累積赤字は約40億円にのぼり、3日に公表された2012年度決算では、4700万円の赤字になった。
 愛知県によると、12年度の馬券売り上げは151億3200万円で、前年度比3%増。電話やインターネットでの売り上げが前年度より3割近く増えて57億5300万円にのぼったが、インターネット事業者へ支払う販売手数料が10~16%かかるため、全体の利益率は低下している。
 4月からは週末に名古屋競馬場で中央競馬の馬券を販売。5月の日本ダービー(G1)では約1億円を売り上げ、500万円ほどの手数料収入を得るなど、収入確保に知恵を絞る。
 一方、11年度には、賞金や出走手当などの諸手当を前年度より15%減らし、人件費も12年度は04年度比で約46%削ってきた。
 有識者らでつくる名古屋競馬経営改革委員会は、競馬の維持には単年度黒字の確保と累積赤字の削減が必要との意見を出していて、7月下旬に存廃などの指針を含めた経営改革の報告書をとりまとめる。
     
 〈名古屋競馬のあり方懇談会の委員を務めたこともある競馬評論家・原良馬さん(79)の話〉 どこの地方競馬場も台所事情は厳しい。競馬は雇用の裾野が広く、簡単にやめられない問題もあるが、競馬に関心がない人にとっては、赤字の際の批判は免れない。

 名古屋は人口200万人を超える都市で、競馬場がある魅力的な街づくりでプラスに転じる要素はある。中央競馬との交流を進める一方、新しいファン獲得のため、競馬場との出会いにつながる施策を続けることが重要。競馬場に足を運んでもらえば、きっと良さが分かってもらえるはずだ。
【写真上】朝の調教をえ、笑せる木之前葵手=4日午前834分、弥富市の弥富トレニングセンター
【写真下】名古屋競馬場の売上額と入場者数