「東京シティ競馬(TCK)」の愛称で親しまれる大井競馬場(東京都品川区)。「トゥインクルレース」と呼ばれるナイター競馬を開催するユニークな競馬場である。その大家が東京都競馬。東証1部上場の企業だ。群馬・伊勢崎オートレース場(伊勢崎市)のオーナーでもある。ただ、その社名とは裏腹に、東京都競馬にとって目下の課題は“脱・競馬依存”である。ファンの中心層に高齢化が進み、参加人口が縮小を続ける競馬に頼らない収益構造をつくろうとしているのだ。
東京サマーランドを大改装へ
東京都競馬は2月22日、向こう5年間の中期経営計画を発表した。目を引いたのは、競馬場に次いで収益柱の一つとなっているプール遊園地「東京サマーランド」(東京都あきる野市)の強化やM&Aも含めた新規事業の育成などだ。
東京都競馬は今後、東京サマーランドの敷地内に0.9メガワットの太陽光発電システムを設置。2014年4月から売電事業にも参入する。大井競馬場は施設をコンパクト化して経費を抑制する一方で、周辺エリアの森と水(海)を生かした総合レジャー公園への脱皮を図っていく。東京サマーランドも14年をメドに大改装。本館ドームのリニューアル、大型スライダーの導入や、シルバー世代を誘引できる新たな事業・施設の設置なども検討していく。
競馬施設事業とオートレース施設事業は「公営競技事業」にまとめ、間接経費などを合理化。一方でシナジーも求めるため、13年4月に伊勢崎オートレース場に場外馬券売り場を開設。公営競技ファンの相互利用を促していく。
さらに、保有資産を活用した事業や既存事業とシナジーが見込める分野への進出を検討し、既存業態周辺でM&Aの活用も積極的に検討していく方針だ。
倉庫事業を行う勝島と平和島(東京都大田区)は、羽田空港や東京港に近く、都心とのアクセスも良い。倉庫は大手運輸企業への1棟貸しが基本で、空室リスクがなく賃料収入が安定している。羽田の国際化による発着枠の拡大など、今後も貨物便や輸送量の増加が期待できるため、収益柱であり続ける。今後は新たな事業用資産の取得で収益力を強化していく。
倉庫を底支えに、他事業のコスト圧縮とシナジーによる収益力強化で、新たな成長軌道入りを目指す。
大井の立地を生かした倉庫事業が収益の柱
東京都競馬の前年度(2012年12月期)の決算は、売上高161億円(前期比6.5%増)、営業利益25.9億円(同20%増)。増収増益だが手放しで喜べない。というのも、これは東日本大震災後に起きたギャンブルの自粛がほぼなくなって、正常化したことが主因だからだ。00年代の最高益である08年度の水準(営業利益34億円)を稼ぐほどではない。
前年度業績を分解してみると、競馬やオートレースは開催日の増加が寄与した。東京サマーランドは営業日数を増やして攻勢をかけたが、水道光熱費やテナント委託費などが膨らみ、部門別でみると若干の赤字だった。
実は、現在の稼ぎ頭は倉庫賃貸。立地のよさを生かして収益を上げており、部門別の利益をみると、大半が倉庫賃貸で稼いでいるのが実態である。
公営ギャンブルはハイテク化も及ばず漸減か
今年度(13年12月期)は、公営ギャンブルは漸減傾向だろう。在宅投票のスマートフォン対応などハイテク化も進めるが、ファン層全体の高齢化や若者のギャンブル離れを食い止めるのは難しい情勢だ。
となれば、競馬に頼らない収益構造の確立は、喫緊のテーマである。すでに稼ぎ頭が倉庫となっている東京都競馬だが、社名と実態との乖離がますます進むことになるだろう。(東洋経済)