阪神競馬場のある兵庫県宝塚市に、歴史に残る名馬や騎手たちが愛用してきた馬具を取り扱う県内唯一の専門店「時田馬具」(時田嘉一社長)がある。華やかな世界を支える職人たちが黙々と勝負服、面子、鞍
くら
など美しい形の製品を手作業で仕上げていく。3代目となる時田嘉昭さん(38)は「究極の状態で疾走する競走馬と、騎手の安全を第一に考えたものづくりに取り組んでいる」と語る。
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戦前、西宮市にあった旧鳴尾競馬場に馬具職人だった祖父の時田嘉夫さん(故人)が開店。厩舎
きゅうしゃ
が宝塚市千種地区にあったことから阪急逆瀬川駅近くに店を移した。日本中央競馬会や地方競馬に所属する競走馬を中心に、馬具の製造販売、メンテナンスを手掛け、栗東トレーニングセンター(滋賀県)や京都、阪神、小倉などの競馬場に出張所を設ける。
馬具は強い競走馬を育てるために欠かせない。馬具職人は厩舎を巡り、馬小屋で競走馬の状態を確認し、調教師や厩務員たちの相談を受けて仕上げる。打撲を防ぐ保護帯や、音に敏感で暴れやすい馬に使う耳や顔を覆うずきん(通称・メンコ)など、個性に合わせ調整を重ねる。製品への信頼は高く、同センター所属の競走馬の大半が使用する。
外国人騎手で有馬記念などを制したルメール騎手(仏)も日本でのお土産に大量の腹帯や鞍を注文した。嘉昭さんは「凱旋
がいせん
門賞に出走するなど、近年はグローバル化が進んだ。製品のきめの細かさ、ものづくりへの姿勢が評価を受けている」と自信を深める。
トップの舞台で疾走する競走馬は一握り。馬具を調整しレースに出走できる状態に仕上げることに最もやりがいを感じるという。嘉昭さんは「時代の流れに逆行するが、究極のアナログスタイルを貫いていく」と話している。(読売新聞)