2012年3月7日水曜日

地方競馬52歳ベテラン騎手 川原正一さん


 尼崎市田能2丁目の園田競馬場。一周約千メートルのダート(砂)コースを駆ける競走馬の一群に、デビューから地方通算で4千勝に到達したベテランジョッキーがいた。2005年に笠松競馬場(岐阜県)から移籍した川原正一騎手。通算出走回数は2万戦以上。レースごとに結果が求められる重責のなかで手綱を握り続ける52歳に聞いた。
 ――2月7日、園田競馬場の第3レースで地方通算4千勝を達成しました。
 数字にはこだわっていません。常に一つ一つのレースをこなしていくだけ。地方でもこれだけやれる騎手がいるとアピールはできたと思う。
 ――騎手になるきっかけは?
 父親の友人が牧場関係者でした。中学3年のとき、岐阜の笠松競馬場にある厩舎(きゅう・しゃ)を紹介され、競走馬に騎乗するジョッキーを見て「かっこいいな」と思った。中学卒業後、半年間は厩舎(きゅう・しゃ)で馬の世話をしながら騎手の見習い生活。その後、地方競馬教養センター(栃木県)に入所しました。
 ――そして17歳でデビュー。騎手生活でつらいのは?
 勝てない時がきついですね。20戦、30戦して1勝もできない時もある。皆が勝ちたいから当然かもしれないけど。
 ――心がけていることは?
 馬の能力を引き出してやること。競走馬にも色々あります。スピードのあるスポーツカータイプや馬力のあるダンプカーみたいなものまで。後方からの競馬が好きな馬もいれば先行逃げ切りが得意な馬もいます。
 ――川原さんの場合、騎手の1日はどんな生活ですか?
 開催日は、午前3時に起床。午前6~7時くらいまで調教をした後に入浴と食事。そのあと第1レースに合わせて仮眠をとります。だいたい全てのレースに出走するから午後5時くらいまで馬に乗る。食事を済ませたあと、午後7時過ぎには消灯します。
 ――休みの日は?
 全休日は体を休めることに専念しています。若いころは夜遅くまで遊ぶこともありましたけど、今は日帰り温泉やマッサージで体をほぐすことが多い。この年になると、いかに体力を回復させることが重要なので。
 ――日々のレースでプレッシャーは感じますか?
 僕たちもそうだが、馬にも次の戦いがある。1レース1レースに命をかけている。本命の馬に乗せてもらった時、そのチャンスをものにできるか。勝ったら次も人気馬に乗れるかもしれないが、結果を出さなければ次の声はかからない。どの馬に乗るかは馬主や調教師が決めるから、僕らはあくまで声がかかるのを待つだけです。
 ――5千勝を狙いますか?
 勝ち数は意識していません。ただ、「年をとっているな」と思わせるレースはしたくない。「まだまだあいつは乗れるな」と思ってもらえるから、いい馬に巡り合える。そうやって走り続けていきたいです。
◆かわはら・しょういち 1959年3月生まれ。鹿児島県出身。中学を卒業後、栃木県の地方競馬教養センターに入所。1年半の騎手課程を経て、76年に笠松競馬場で初騎乗。今年2月7日に地方通算4千勝を達成した。地方競馬では史上8人目。年間の出走回数は1千回を超える。
◆◆取材を終えて
 取材当日、川原騎手は出走したレースでスタートと同時に落馬した。左肩を痛めたが、大事には至らなかった。全レース終了後、写真撮影で笑顔をお願いすると、「勝たなきゃ笑えないかな。一回のレースごとに命をかけているからね」。それでも川原さんはカメラの前でかすかな笑みを浮かべてくれた。騎手は常に危険と隣り合わせだ。「今日も無事にレースを終えた」という安堵(あん・ど)の表情が印象に残った。(朝日新聞)
【写真】遠征先の福山競馬場で重賞レースを制した川原正一騎手=広島県福山市、兵庫県競馬組合提供