2014年3月5日水曜日

佐賀競馬 ネット活用で業績快走 JRAファン取り込み

■九州唯一の地方競馬
 赤字経営に苦しむ全国の地方競馬が、日本中央競馬会(JRA)のネット投票システム「I−PAT(アイパット)」を活用して収支改善を進めている。九州で唯一残った佐賀競馬場(佐賀県鳥栖市)も、買えるアイパットによる馬券販売を平成24年11月に始めたところ、売上金前年比3割増を達成した。関係者は「あと1年で累積赤字も吹き飛ばせそうだ」と鼻息も荒い。
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 今月1日、佐賀競馬場。出走馬がゲートに入ると静寂が包むが、それもつかの間。出走と同時に観客から歓声が上がり、ゴールの瞬間、最高潮に達した。
 「母ちゃんに土産でも買ってやるよ」。レース前、競馬新聞をにらみつけていた自営業の男性(66)は笑いながら、馬券を示した。
 スタンド最前列には人が集まり、情報交換する。福岡県久留米市の飲食店経営の男性(66)は「みんな仕事も住まいもバラバラだけど、すぐに打ち解けるよ。交流を図るんが一番の楽しみ」と語った。
 だが、競馬ファンにとって居心地のよい場所は、存続の危機に瀕(ひん)している。
 佐賀競馬の年間入場者数は最盛期の昭和49年度に104万5千人を記録したが24年度は32万5千人まで激減した。売上金も平成3年度の360億円から24年度は105億円に落ち込む。
 佐賀競馬は調教師や騎手、厩務(きゅうむ)員ら約千人がいる。生き残りをかけて、職員給与の削減、騎手や馬主への賞金カットなどを進めたが、焼け石に水だった。運営する佐賀県競馬組合は、平成24年度末時点で2億9500万円の累積赤字を抱える。
 苦境は佐賀に限った話ではない。
 地方競馬全国協会(東京)によると、昭和37年に35カ所を数えた地方競馬場は、平成13年以降に14カ所が閉鎖した。地方競馬の24年度売上高は計3326億円。3年度(9862億円)の3分の1にまで落ち込んだ。九州でも平成23年末に荒尾競馬場(熊本県)が83年の歴史を閉じ、残るは佐賀だけとなった。
 地方競馬は戦災の復興財源を賄う目的で始まった。自治体に経営を認める地方競馬法が昭和21年に施行され、別名「財政競馬」と呼ばれる。
 しかし、経営難に伴い、佐賀競馬から自治体への配分金は平成9年を最後に途絶えた。
 ファンの高齢化、レジャー多様化による売り上げ減−。存在意義が改めて問われる事態に、全国の地方競馬場はJRAと交渉し、平成24年10月、JRAのネット投票システム、アイパットに加わった。JRAのネット会員約300万人に、地方競馬の馬券発売が可能となった。
 佐賀競馬場も24年11月に導入。営業時間も延長して、JRAの最終レース後の時間帯を狙った「薄暮競馬」を始めた。
 競馬場に行かなくても馬券が買えるアイパットの導入効果はすぐに表れた。25年度の売上金は、昨年10月までで前年同期比33%増となった。
 アイパットによる知名度向上が奏功し、佐賀を含めた地方競馬が独自運用していたネット投票の売り上げも5割伸びた。この結果、佐賀競馬の売上金の1割に満たなかったネット経由の収入は、25年度は4割を占めるまでになった。
 ただ、存続の危機が去ったわけではない。
 佐賀競馬に所属する競走馬は500頭。魅力あるレースを構成する最低ラインの800頭に遠く及ばない。荒尾競馬場が閉鎖され、他の競馬場との交流も難しくなった。他の競馬場への人気馬の流出も相次ぐ。
 「JRAに比べたらエキサイティングなレースはない。予想は簡単、配当も安い。ネット投票もすぐに飽きられるんじゃない?」
 観客席の男性客は辛辣(しんらつ)だ。この声の通り、佐賀競馬の入場者数は開催日平均3千人と微減傾向が続く。また、作業服姿の男性が目立ち、若者や女性の取り込みに成功しているとはいいがたい。
 組合はネットで稼いだ利益を、トイレ洋式化や高齢者向けエレベーター設置など老朽化した施設の改修にあてる。設備を整え、若年層の取り込みを図る。
 佐賀県競馬組合の江崎保夫次長は「今までの地方競馬は『おらが町の競馬場』という立場で、互いの競争意識は薄かった。アイパット導入により、中央競馬だけでなく、地方競馬同士もお客の選択にさらされることになった。レースをはじめ質の向上に努め、他の地方競馬場との差別化を図りたい」と語った。
 サークルの仲間に誘われて初めて訪れた西南学院大学4年、内山里佳さん(22)は「競馬と聞くと怖かったけど、昭和な雰囲気が良かった」と笑顔で競馬場を後にした。

 地方競馬存続は、従来のファンを大事にするとともに、新たな顧客層の獲得が急務だ。目の前で馬が走る。馬にはそれぞれ個性がある。競馬本来の魅力をさらに磨き上げ、新規ファンを呼び込み、リピーターとする工夫が欠かせない。(MSN産経ニュース)

【写真】佐賀競馬場を疾走する競走馬。入場者数は伸び悩むが、ネット投票の導入で売上金は増加している