2008年11月1日土曜日

民間委託拡大見送りで八方ふさがり 岩手競馬

 岩手競馬の民間委託拡大が31日、岩手県競馬組合の管理者・副管理者会議で見送られ、来季も単年度収支均衡を図る現行方式を続けることになった。数字の上では決して赤字にならないやり方だが、不況で売り上げが落ち込む中、再生への道のりは依然として厳しい状況にある。競馬関係者からは「今のままではいずれ廃止だ」との声も上がる。
<コスト削減限界>
 奥州市の水沢競馬場で働く厩務員の男性(58)は、落ち着かない日々を送っている。「現行方式と民間委託のどちらがいいのかは分からない」。最大の関心事は競馬が存続できるかどうかだ。
 今季、岩手競馬は売り上げに応じてコスト削減するやり方を昨年度に続いて実施した。競馬組合は2年連続の黒字達成に自信を見せるが、現場は限界に近づいてきていると感じている。
 コスト削減に伴い、500万円以上あった男性の年収は今、300万円にも届かない。辞める人も多く、担当する馬は3頭から5頭になり、収入は減っても仕事が増える悪循環に。 「できるのはレースを面白くする良い馬を育てることだ」と自分に言い聞かせるように話す男性。「自分の馬が勝つと賞金を手に飲みに行くのが楽しみだった。もうそんな余裕はない」 現場の苦悩は競馬組合も承知している。幹部は「売り上げが下がり続ければ、あと5年も持つかどうか」と現行方式の限界を認めた上で「だからこそ、民間委託拡大が必要だった」と話す。 委託交渉先にソフトウエア大手日本ユニシス(東京)が決まる前、競馬組合は大手情報技術(IT)企業に委託を打診した。相手側は乗り気だったが、「現場スタッフを確保できない」との理由で立ち消えになった。 赤字覚悟で200億円以上の競馬事業を引き受ける企業は多くない。競馬組合管理者の達増拓也知事も最終判断直前の23日の記者会見で「企業が赤字でも取り組むというのは甘い考え。事業参入は有名企業でも難しい」と漏らしている。
 ユニシスは今回、最終判断直前に提出した事業計画で、売り上げが伸びない土曜日の開催に見切りをつけ、出走手当を減らして1着賞金を上げる方針を掲げた。
 組合幹部は「出走手当引き下げで馬が集まらず、開催そのものが危ぶまれる」と実現性を疑問視するが、「岩手競馬に欠けている発想だ」とその攻めの姿勢を評価する競馬関係者もいる。
<冒険はできない>
 岩手競馬は単年度で黒字を維持し続けることが存続条件。賞金配分などを大きく見直し、攻めた結果が赤字であればその時点で廃止になる。かといって、現行方式で守りの経営を続けても、レースを続けられる保証はない。そこに岩手競馬の経営の難しさがある。 ある競馬組合の男性職員は「冒険することはできないが、もっと自分たちでアイデアを出す必要がある」と話す。
 存廃騒ぎなどに揺れた昨季と違い、今季の岩手競馬には明るい話題もある。有名タレントのイメージキャラクターへの起用や帰宅途中の会社員をターゲットにした薄暮開催などの取り組みは、まだまだ増収の余地があることを示した。 民間委託について競馬組合は今後、すべての業務内容などを検証し、包括的な委託拡大にこだわらず、最善の方策を協議していくとみられる。
 31日、達増知事は「県民に信頼され、ファンの期待に応えられる岩手競馬を経営していきたい」と意気込みを語った。 (河北新報)