◇サラブレッド繁殖~育成 「産地おこしに協力」
サラブレッドの主産地として知られる日高管内新ひだか町にある静内農業高校(尾形春夫校長、生徒数222人)では、全国の高校で唯一、サラブレッドの繁殖から育成までを学ぶことができる。乗馬セラピーにも取り組み、地元の障害児と交流しながら、競走馬だけでない馬の魅力を引き出す学習にも力を入れている。
健康管理
「喜桜桜(きらら)、もう飲まないの。まだ残っているよ」。厩舎(きゅうしゃ)の奥で生産科学科3年の女子生徒が4月17日に生まれた子馬に哺乳(ほにゅう)瓶で授乳する。そばには母馬のミシェロガールもいるが、喜桜桜はもう十分なのか哺乳瓶とじゃれ合うだけ。
専門科目「馬利用学」の授業の一こま。この日、3年生は馬の体の手入れやひづめの掃除のほか、馬術大会に出た馬の筋肉に張りがある個所に湿布薬を塗り、温水をかけてケアする。その後、馬場に出て、生徒が乗馬しながら軽い運動をする。2時間の授業があっという間に過ぎた。
同校で育成する馬はサラブレッド9頭とポニー3頭の計12頭。生徒らが1日3回餌を与え、健康管理や運動させながら育てる。毎春、1頭が誕生し、2歳になると競走馬として出荷する。同校生まれのユメロマンが05年2月、中央競馬に出走し、デビュー戦を勝った。他に4頭が地方競馬に出場している。
千葉県松戸市の実家を離れ、入学した森田智子さん(17)は「サマーセール(馬の競り)で、昨春生まれた子馬にいい買い手が付くよう馬体づくりに力を入れています」と話す。兄と一緒に小学生から乗馬を始め、この高校を希望したという。
セラピーに力
同校が今、力を入れているのが乗馬セラピー。生産科学科の2、3年生で作る馬研究班が地元の「道立平取養護学校静内ペテカリの園分校」の生徒と交流し、年2回の乗馬体験で心を癒やしてもらっている。今年も6月から交流が始まり、今は落馬などのトラブルがないよう準備を進める。
乗馬セラピーの取り組みは、今年2月に函館で開かれた農業高校の「全道実績発表大会」で最優秀賞に選ばれ、10月の全国大会に出場することが決まった。研究班長の3年、菅原彩花さん(17)は「乗馬のとき、馬の心臓の鼓動や体温、振動を感じると、分校の生徒も実に楽しそうです。馬は人間の気持ちがよく分かるので、生徒も感情豊かになる気がします」と話す。
観光・文化活動も
同校には生産科学科のほか、食品科学科もある。同科は食育の一環として、地元の小学生を対象に牛乳の生産から加工・販売までを体験する「しずないミルク学校」を毎年開催している。校内の販売施設「あぐり工房桜樹」では、学校近くの桜の名所、二十間道路の満開の花をイメージしたアイスクリームを販売している。
尾形校長は「競走馬の繁殖、育成だけでなく、乗馬セラピーや観光との連携、さらに人間生活と結びついた馬文化の紹介にも活動を広げ、馬産地の地域おこしに協力していきたい」と話している。(毎日新聞)