起床は午前2時。まだ外が真っ暗なうちに馬場に出て、馬を疾走させる。「どんな馬でも乗りこなせる騎手になりたい」。半年後のプロ試験に向け、金沢競馬場の高橋道雄厩舎で調教に打ち込む。
「かっこいいな」。小学生の頃、親に連れられて訪れた京都競馬場で、馬を駆る騎手の姿に魅せられた。中学卒業を控え、将来の進路を真剣に考え始めた時、騎手になるには0・8以上の視力が必要と知った。「0・1の視力しか無い自分では無理」。普通高校へ進学せざるを得なかった。
しかし、夢への情熱は抑えることができなかった。乗馬クラブに通いながらアルバイトでお金をため、目の手術を受けて視力を回復させた。高校を2年で中退すると地方競馬教養センター(栃木県)に入所し、騎手になるための2年間の養成生活に入った。
馬の世話や馬小屋の掃除に追われるセンターの生活は、さっそうと馬を操る騎手のイメージからかけ離れていた。調教も最初は単調なものばかり。「何でこんな所に来てしまったのだろう」。理想と現実の違いに戸惑った。
さらに、体重調整の負担ものしかかる。168センチの身長は、騎手の世界ではかなり大柄だ。馬具を含めて50キロという体重制限を守るため、ストレッチや5キロのランニングなど、日々のトレーニングは欠かせない。
それでも、「やっぱり馬に乗ることは楽しくて、もっと努力しなければと思う」。金沢競馬場へは同センターのカリキュラムの一環として8月に来た。騎手候補生として来年1月まで、あこがれの先輩騎手や調教師、厩務員に指導を受けながら競馬の世界を学ぶ。来春の試験に合格すれば、4月からプロデビュー。夢をかなえる“ゲートイン”まで残りわずかだ。(読売新聞)
<写真>糸井拓哉さん19歳 金沢競馬騎手候補生
京都府向日市出身。趣味は音楽鑑賞で、人気グループ「GReeeeN」がお気に入り。