2011年6月18日土曜日
門別競馬場に屋内坂路コース造成 8月着工3月完成へ
2歳馬の供給基地として、地方競馬に特異な位置を占めるホッカイドウ競馬が、さらに大きくグレードアップする。HRA北海道軽種馬振興公社(理事長・三輪茂日高町長)は5月31日に開かれた通常総会で、懸案だった屋内坂路コース新設にゴーサインを出した。競馬場北側の空き地と自然林が有する傾斜を利用し、総工費約6億円を投じて800m馬場を造成する。プランが順調に進めば本年8月中に着工し、来年3月の完成を目指す。馬資源供給競馬を掲げる馬産地競馬が坂路新設により、日本競馬全体のレベルアップにさらに大きな役割を果たす。
国内で初めてシーズン全日ナイター開催を実現したホッカイドウ競馬が、さらに大きく進化を遂げる。計画によると所有する競馬場敷地に加え、造成に必要となる周辺の約5万5000㎡を買収。整地後は幅員10mの空間に7m幅のウッドチップを敷き詰め、傾斜角度0.5%〜5.5%(別図参照)の屋内坂路コースを新設する。
最大の懸案だった資金面については、6億円の事業費のうち4億円を軽種馬産業活性を目指して創設された緊急対策事業費を利用。残る2億円はホッカイドウ競馬を主催する、道が負担することで決着した。
屋内坂路造成の意義、メリットは多方面にわたる。そのひとつは、通年調教が滞りなく行えることだろう。北国の冬は厳しい。門別は北海道では温暖で雪の少ない地域だが、冬期間は吹雪や、凍結による馬場閉鎖は珍しくない。メーンコース内側にある600mの追い馬場をウッドチップにするなど最大限の工夫をこらしてはいるが、厳寒には勝てず調教のタイムスケジュールに支障を来す場面もあった。
ホッカイドウ競馬は11月下旬にシーズンが閉幕。それから1歳馬が入厩し、馴致訓練をスタートする。国内品初の新馬戦が始まる4月まで、与えられた時間は潤沢ではない。その中で4月デビューへ向けて、調整をやり繰りしてきた。しかし、屋内坂路なら吹雪や寒気も怖くない。
HRA職員は「開幕当初の出走馬不足に、ホッカイドウ競馬は発足当初から悩まされてきました。屋内坂路コースができるとトレーニングがスムーズになり、シーズン幕開けから出走頭数が揃いファンの皆様にも喜んでいただけるでしょう」と期待した。
ふたつめは、栗東や美浦トレセンで実証されている“強い馬づくり”効果だろう。調教師と騎手で構成する北海道調騎会の若松平会長は「坂路が出来ればうれしい。2歳交流レースは重賞競走を含めて、早く仕上げ、キャリアを積むことで中央勢と互角の成績を残してきました。古馬になるとかなわなくなります。持って生まれた素質もあります。調教の質の差も大きいと感じていました。(HRAの)井村専務が坂路で高い実績を残している、BTC日高事業所長を務められノウハウを熟知しているのも心強い」と歓迎する。
坂を駆け上ることで大きな負荷がかかり、筋力を増し心肺機能が大きく向上することは科学的なデータからも実証されている。馴致段階の仕上げでは日本有数を自負する厩舎スタッフが、よりハード面をグレードアップすることでさらなる強い馬づくりを推進する環境が整うことになる。
今年、南関東の羽田盃、東京ダービーの2冠を、ホッカイドウ競馬から移籍したクラーベセクレタが制した。
中央でも過去、ドクタースパートが皐月賞、アローキャリーが桜花賞を制覇。それに止まらず馬産地競馬出身馬の高レベルは、競馬サークルの広く認知するところだ。
ホッカイドウ競馬は存廃の危機を乗り越え本年、安定的な継続開催へ新たな一歩を踏み出した。存在理由の大きな柱のひとつが、馬資源供給競馬としての役割だった。6月中旬現在で、2歳馬の入厩頭数は全国の地方競馬で約880頭ほど。その内500頭が門別にいる。数字からも供給競馬の陣容を整えていることが実感できる。
HRAの井村勝昭専務は「多くの方々のご助力で、屋内坂路造成へ踏み切ることができました。冬期間の調教環境を整え、春先のメンバーを充実させる。坂路でトレーニングすることで、強い馬づくりを大きく前進させることができます」。
続けて「ホッカイドウ競馬の存在意義として、全国の競馬場へ馬資源を供給し、さらに馬産地のショーウインドーとなる役割りがあります。商品に付加価値をつけることで、生産者の皆様のご期待に応えたい」。意気込みを新たにした。
1年後には、坂路コースで鍛えられた馬たちの力強い蹄音が、門別競馬場から全国の競馬サークルへ発信される。(馬時通信)
【写真】800メートル屋内坂路コース完成図