連戦連敗ながら懸命に走り続ける姿が話題となった牝馬「ハルウララ」を生んだ高知競馬(高知市)に、平地での最多出走記録を更新中の馬がいる。12歳の牡馬「ダイナブロス」(田中守厩舎)。デビューからの出走回数は268を数え、毎週のようにターフに姿を見せる。「無事これ名馬を体現するような馬」。関係者は口をそろえる。今のところ、ハルウララのようなブームとまではいかないが、ハルウララ同様にダイナブロスの毛が入ったお守りの配布も検討中。売り上げが低迷する同競馬のファン拡大につながるだろうか。
◆ひっそりと表彰式
東京競馬場で国内外のトップホースが集ったJRAのG1レース「ジャパンカップ」が華々しく開催された11月30日、高知競馬場の正面スタンド前でひっそりと表彰式が行われた。ダイナブロスの最多出走記録樹立を祝うセレモニーだ。
この日は出走しなかったダイナブロスが登場し、表彰台では馬主ら関係者に表彰状や花束を贈呈。数十人のファンが表彰台前に集まり拍手を送り、ダイナブロスには「これからもがんばれよ」といった声援が飛んだ。馬主が花束をファンにプレゼントするなどレースの合間にファンと関係者がふれあうイベントとなった。
ある男性競馬ファンは「あれだけ走るとは立派。まだまだ走ってほしいね」と話した。
◆1着12回 勝率4.4%
ダイナブロスは平成8年5月28日に北海道浦河町の牧場で誕生。父はフランス、米国で5勝をあげるなど短距離で活躍したエブロス。母は産駒が主に地方競馬で活躍しているユウワニート。平成10年に公営新潟競馬でデビューした。
その後、岩手県内の盛岡、水沢競馬、上山競馬(山形県上山市)と地方競馬を転々とし、15年12月に上山競馬の廃止に伴い高知競馬の所属となった。
高知競馬に移った時点ですでに出走回数は100を超えていたが、高知転入後も1カ月に2~4レースは出走するという元気のよさをみせている。ただ、戦績は出走268回中1着は12回。勝率は4.4%程度、獲得賞金は約860万円と強い馬とはいいがたい。11月24日に成績の芳しくない馬を集めた名物レース「一発逆転ファイナルレース」で12頭立の8番人気で1着となったが、実に2年3カ月ぶりの勝利。3連単の払戻金は60万680円という高配当を演出した。
管理する田中守調教師(40)は「とにかく丈夫で元気がよい。年齢のわりには馬体が若々しい。性格も素直でおとなしいので騎手も乗りやすい」と評する。
主戦の森井美香騎手(24)は「ゲートから出るときもお利口にしている。騎手4年目ですが、この馬に育ててもらった面もあります」という。
◆ハルウララに続け
レジャーが多様化する中、地方競馬を含めた公営ギャンブルは「冬の時代」ともいわれる。高知競馬を運営する高知県競馬組合によると、年間売り上げも3年度の約220億円をピークに減少。19年度の本場開催の売り上げは約39億円にとどまった。
売り上げ増に向けて、同組合は仕事帰りに競馬場に行ける薄暮開催や高配当が期待できるダイナブロスが勝った名物レース導入など多様な取り組みに力を入れている。
一方で、話題づくりという点ではハルウララがブームとなった15、16年ごろから数年間、ハルウララの毛が入ったお守りを来場者に配ったことがある。「丈夫で長持ち」という意味を込めて、ダイナブロスの毛が入ったお守りの配布も検討している。
同組合の担当者は「本当はもっと強い馬で話題が提供できたら」と苦笑する。
地方競馬ではハルウララをはじめ、長らく平地の最多出走記録を持っていた益田競馬(島根県益田市、休止)のアイドルホース「ウズシオタロー」のような話題を呼ぶ馬が生まれることがある。ダイナブロスがこうした存在になれるかは分からないが、田中調教師は「(高知競馬の経営は厳しいという)こんな状況だが、とにかくいつまでも元気に走らせてやりたい」と話している。(msnニュース)