金沢競馬の当面2年間の存続が決まった。税金を投入しないとの条件付きで、基金を取り崩しながらの綱渡りの経営が続く。来年度からは総額9億円の 大規模な施設改修も始まる。厳しい条件下の“再出発”で、関係者に喜びの声はなく、県の経営に対する不安や不満も渦巻いている。
「まるでお荷物扱い。競馬がどれだけ県財政に貢献してきたと思っているんだ」。金沢競馬の調教師の1人は、存続決定の知らせにも厳しい表情を崩さなかった。
地方競馬は地方財政を潤す「打ち出の小づち」だった。金沢競馬も記録が残る1973年度以降、計約620億円を県と金沢市の一般会計に繰り入れてきた。
しかし、バブル崩壊後に経営が悪化、99年からは積み立て基金を取り崩し、赤字補填(ほてん)が続く。その基金も24億円にまで減った。経営評価委員会は、基金が枯渇する前に事業廃止すべきと結論づけたが、現場関係者には「切り捨て」と映る。
経営逼迫(ひっぱく)の中、県競馬事務局は2011年度から7年かけて、耐用年数を大幅に過ぎた着順表示盤や空調設備などの改修を計画。総額9億 円で毎年の負担は1億2900万円だ。調教師は「基金の底が見えてからやるのは自殺行為。なぜ、余裕がある時に改修しなかったのか」と憤る。
事務局の経営に対する現場の不信は大きい。事務局は07〜09年度、広告会社と共同で、初心者に馬券の買い方を教える窓口の設置や婚活イベントなど64項目の新規プロジェクトを実施。しかし、芸能人の招致など安直な施策も多く来場者や収益は増えなかった。
明るい話題もあった。中央競馬から金沢競馬に“降格”したジャングルスマイルと、高崎競馬の廃止で金沢に移籍した調教師がタッグを組んで12連勝 し、今秋、G1出場を果たした。関係者は「ダブルでリストラの星だ」と金沢競馬の人気復活に期待を寄せたが、事務局はPRの機会を逃してしまった。
事務局の運営はすべて県職員。在勤15年のベテランもいるが、競馬関係者の間には「経営も競馬も素人では、ファンや潜在的愛好者の心をつかめない」との意見もあり、調教師と騎手で作る県調騎会は、専門職員の養成や経営プロの外部採用を求めている。
金沢競馬には調教師32人、騎手23人、きゅう務員121人が所属。相次ぎ廃止される地方競馬からの雇用の受け皿としての役割も大きい。
県調騎会副会長の佐藤茂調教師(51)も、03年に廃止された山形県上山競馬場からの移籍組だ。佐藤調教師は、全国の地方競馬17場の半数が経営 不振に陥っていることから、金沢競馬が廃止となると、調教師の9割は廃業に追い込まれると予測。「我々もいいレースを見せるのに全力を尽くすが、県も周囲 にレストランやレジャー施設を誘致するなど、経営感覚を磨いて事業を再生させてほしい」と注文を付けている。(読売新聞)