2011年1月27日木曜日

苦境の岩手競馬 経費削減も限界

 全国的に売り上げが低迷している地方競馬。東北で唯一の存在の岩手競馬も苦境が続いている。入場者数は減る一方で、馬券の売り上げも上がらない。単年度の赤字を出したら廃止となるため、賞金や人件費を削りながらなんとかしのいでいるのが現状だ。経費削減の限界が近づく風前の灯火の岩手競馬に、未来はあるのか。

 岩手には盛岡市と奥州市水沢区に競馬場が二つある。県競馬改革推進室によると、2010年度の通常開催の入場者数は計30万5677人で、前年度比11%減。馬券の売り上げは184億3600万円(前年度比7・5%減)で、ピーク時(1992年度)の690億円の3割以下だった。

 県競馬組合を構成する県、盛岡市、奥州市への配当金は1999年以降、ゼロ。独自の財源を確保できる公営ギャンブルの役割を果たしていない。

 赤字が膨らんだ2007年、県議会で存続問題が議論された。収支均衡を保つことを条件に、県と両市が計330億円を融資して負債を肩代わりすることで、存続が決まった。以降、人件費や光熱費などの経費削減で何とか単年度黒字とし、ぎりぎりで続けているのが現状だ。

 勝ち馬への賞金も年々減少している。今年度の1着馬の最低賞金額は10万円、全国14地区にある地方競馬(ばんえいを除く)の中で2番目に安い。

 賞金が主な収入源となる騎手や調教師は深刻だ。騎手生活28年の小林俊彦さん(45)は「収入はいい時の4分の1。生活ができずやめた若い騎手もいる」と話す。自己負担する勝負服は約2万円。騎手同士で情報を交換して安く売っている店を探す。ゴーグルの上に着けるカバーはホームセンターでシートを買って手作りするという。

 水沢競馬場に長年、足を運んでいる奥州市の男性(58)は「賞金が減るとレースの魅力も減る」と嘆く。素質の高い馬を持つ馬主は、より賞金の高いレースを選ぶからだ。90年代には、岩手にもトウケイニセイやメイセイオペラといったスターがいたが、最近は全国的に通用する馬は出ていない。

 県競馬改革推進室によると、競馬に携わる人は約1300人、経済効果は年316億円と試算されている。小林騎手が「これだけの効果がある企業が県内にあるのか。競馬がつぶれれば街の火は消える」と主張するように、簡単に廃止できない実情もある。

 そんな岩手競馬も光がないわけではない。2012年度ごろから、地方競馬の一部レースの馬券を、日本中央競馬会(JRA)のインターネット投票(PAT)で買えるようになる。PAT会員は約300万人とされ、売り上げが飛躍的に伸びる可能性がある。

 県競馬組合の高前田寿幸副管理者は「コストカットが限界に近づいているのは確か。だが、もうすぐチャンスも来る。今はその時に向けて耐えていきたい」と話している。(朝日新聞)