荒尾競馬で働く人たち
荒尾競馬には約190人の馬主がおり、この馬主から競走馬を預かり、管理やトレーニングを行うのが15人の調教師。それぞれの調教師の下には従業員として、騎手(14人)と、馬の世話をする厩務員(69人)がいる。競馬組合側は事務員が37人おり、競馬開催日は警備や発売窓口の担当者なども加わる。
「荒尾競馬」出走手当3割カット 馬主側 反発と動/九州
熊本県荒尾市の荒尾競馬が、レースに出るたびに馬主に支払われる「出走手当」をめぐって揺れている。“震源”は競馬事業を運営する荒尾競馬組合(管理者・前畑淳治荒尾市長)が7月、経営改善策として打ち出した手当の約3割カット。事前協議なしの大幅減額に、馬主や調教師、厩務員などの関係者に反発や動揺が広がる。今月8日には減額された手当が初めて支払われるが、馬主側は減額前との差額分の支払いを求める構えだ。
「1走あたり一律1万5000円の削減の実施に踏み切ることといたしました」。組合は7月23日、馬主会の全会員186人に方針を伝える文書を郵送した。
荒尾競馬は旧三池炭鉱閉山やレジャーの多様化などの影響で入場者が減り続け、累積赤字は約14億円に上る。昨年末には隣町に競艇の場外舟券売り場ができ、売り上げの減少に拍車がかかった。
「競馬存続のための苦肉の策」。前畑市長は出走手当の減額に踏み切った胸の内を明かす。
◆全国最低レベル
そもそも出走手当とは何か。組合から馬主に支払われるのは、1―5着に入った場合の賞金と、出走馬すべてが対象となる出走手当の2つが柱。競馬では、売り上げの75%が馬券を買った人たちに払い戻され、残りが競馬場の収入となる。荒尾の場合、賞金と出走手当には収入の半分程度が充てられている。
「馬主から見れば、勝敗に関係のない出走手当は基本給、成功報酬の賞金は歩合給のような性格がある」(地方競馬全国協会)という。
全国に17ある地方競馬場でみると、1着賞金の最低額は、各競馬場の経営状況などによって9万―80万円と格段の差がある。対して、出走手当は1回につき5万―7万円が相場で、それほど大きな開きはない。
荒尾の1着賞金の最低額は10万円。出走手当は今回の引き下げで3万5000―4万5000円となり、いずれも高知競馬(高知市)に次ぐ全国2番目の低さとなった。九州ではほかに佐賀競馬(佐賀県鳥栖市)があるが、同競馬場の賞金最低額は15万円、出走手当は7万―7万5000円という。
◆対立長期化か
「8月だけで4頭も馬がいなくなった」。競馬場に隣接する厩舎団地で11頭を飼う調教師(57)は、出走手当の減額が決まり馬を手放す馬主が増えたと話す。
荒尾競馬全体では、6月末に約350頭いた競走馬は、今は約290頭に減った。ほかの競馬場の厩舎への移籍や殺処分が進んでいるという。
馬主は調教師に預託料を支払って馬を預ける。荒尾では、この預託料を出走手当でまかなっている馬主が多く、手当減額が馬の減少につながっているのだ。
馬主会は8日の手当振込額を確認した上で、組合側に再度減額見直しの交渉を求める方針だが、「荒尾競馬存続にはこれしかない」という組合側には譲歩の気配はなく、双方の対立は膠着状態が続く見通しだ。
手当減額は、馬主からの預託料が主な収入源の調教師と厩務員にとっても、まさに死活問題。それでもある厩務員はこう訴える。「競馬関係者同士が対立していても事態は乗り越えられない。減額分を馬主や調教師、厩務員が痛み分けで負担するなど、荒尾競馬を絶やさないための建設的な話し合いがしたい」 (西日本新聞)