2011年12月24日土曜日

荒尾競馬、83年の歴史に幕…最古の地方競馬


 現存する地方競馬としては国内最古の歴史を持つ熊本県の荒尾競馬が23日、83年の歴史に幕を下ろした。
 スタンドには近年で最多の約8900人が詰めかけ、海沿いの本馬場特有の潮風の中を疾走する競走馬に最後の声援を送った。本馬場を一般開放するなどのサービスもあり、ファンたちは過去のレースを振り返るようにコースを踏みしめていた。
◆最終レース
 最終レースは騎手を目指して訓練してきた小山紗知伽さんの先導で所属騎手12人が入場した。
 午後3時17分、ファンファーレが鳴り響くと、約8900人で埋まったスタンドがざわめいた。同18分、スタート。歓声の中、1着で駆け抜けたのは、ベテランの牧野孝光騎手が騎乗する「サマービーチ」。笑顔で手を振る牧野騎手に「ありがとう」「お疲れさま」という声が飛んだ。
 これに続いてセレモニーがあり、騎手や調教師、馬主、厩務員ら関係者がスタンドの前に整列。荒尾市の前畑淳治市長は「心の中に、荒尾競馬を大切な思い出として残していただきたい」とファンに呼び掛け、牧野騎手は「最後のレースで勝てた。悔いはありません」と震える声で話した。
◆ファン
 競馬場入り口には早朝からファンが列を作り、午前9時10分の開場とともに流れ込んだ。スタンドではレースを写真に収めようとカメラを構え、騎手や出走前の馬を間近で見られるパドックにも人垣ができた。
 ファンの一人で、荒尾市の馬場賢晋さん(35)は、馬主だった父の影響で小学生の頃から通い、厩務員として働いたこともあった。「廃止だなんて信じられない」と目を潤ませ、「これだけのファンがいるのだから、継続もできたのでは」と惜しんだ。
 神戸市の会社員男性(50)は「海のそばで眺めもよく、馬との距離が近くて好きだった。なくなってしまうのは寂しい」と肩を落とした。
 レース終了後、一般開放された本馬場には多くのファンがスタンドから降り立ち、幾多の競走馬が駆け抜けたコースを名残惜しそうに踏みしめた。騎手にサインを求める姿も見られた。
◆引退
 この日を最後に引退する関係者も多い。荒尾競馬の代表的な調教師平山良一さん(63)もその一人。廃止が決まって他競馬場に移籍を求めたが、年齢のハンデから断念し、引退を決めた。
 調教師生活33年。育てた馬、騎手は数知れない。この日最後の重賞レースでも自らの厩舎の馬が勝利し、有終の美を飾った。
 「好きな道だったから苦労を感じなかった。気分良くフィナーレを迎えられてありがたい」。レース終了後、騎手一人ひとりを「お疲れさんでした」と温かく迎え、労をねぎらっていた。
 吉田隆二騎手(46)も27年間の騎手生活を終えた。「数々の大きなレースを走り、プレッシャーをはねのけて勝てたことが思い出。これをバネに次の人生に挑戦したい」と話し、家族との記念写真に収まっていた。(読売新聞)
【写真】騎手からサインをもらう競馬ファンたち