荒尾市の荒尾競馬は23日のレースを最後に83年の歴史に幕を下ろす。最盛期には市の財政に多大な貢献をしたが、レジャーの多様化とともに衰退し、逆に財政的な“お荷物”となってしまった。年度末の廃止へ向けた手続きが進むが、従事者の再雇用問題など課題は山積している。
<雇用>
市競馬対策課によると、競馬場で働く関係者は102人。競馬組合(主催団体)管理者を務める前畑淳治市長が9月に廃止を表明して以降、市は再就職を支援してきた。
11月30日現在、調教師14人中4人、騎手13人中10人、厩務員63人中27人、装蹄師9人中1人の再就職が決定・内定(獣医師3人は未定)。だが、半数以上の残る60人は未定で、うち7人は高齢などを理由に引退を予定しているという。
未定者が最も多い厩務員は年配の人が多く、引き受け先が少ない。別の仕事を探すのも難しく、この道40年という男性(63)は「(23日の)最終レース後に本格的に再就職先を探すが、最悪のケースを想定しなければならないかもしれない」と不安を口にする。
装蹄師の波多野忠さん(51)は「我々のような特殊な職種は仕事場が限られ、他の競馬場にも容易には入れない。廃業しかないのかな」とポツリ。市の担当者は「全力を挙げ、年度末には再就職率100%に近づけたい」と言うが、現実は厳しい。
<補償>
市と競馬場に携わる人たちとの間には直接の雇用関係がなく、退職金を払うことはできない。一方で、収益金を市の一般会計に繰り出しており、関係は深い。このため、退職金に代わる形で「協力見舞金」を出すことにしている。
ただ、他の廃止競馬場の例と比べると金額的に少ない。市と各職種代表との交渉は調教師、厩務員、装蹄師会、予想紙関係者の組合とは決着したが、騎手、馬主などとは交渉中。
特に、馬主会との交渉はハードルが高い。組合側は昨年8月、競走馬の出走手当を引き下げており、馬主側は引き下げ分の総額約9400万円の補償も求めているからだ。行き場のない馬の処分も始まっていることもあり、対立は根深い。
このほか、場内の食堂で働く従業員も職場を追われることになる。市は当初、見舞金の支払い対象にしていなかったが、窮状を訴えられ、交渉を進めている。
<市の責任>
組合管理者の前畑市長は、廃止決断の理由をこう述べた。
「1997年の三池炭鉱閉山を契機とし、レジャーの多様化もあって売り上げ、入場客とも年々減少した。将来も累積赤字を解消する見込みが立たない」
現在3期目。2003年1月の市長就任以来、「あらゆる手段を尽くして経営改善に努めてきた」と言う。だが、就任当初の累積赤字約6億円は現在、13億4000万円に倍増した。
競馬法は、地方競馬の存在理由の一つに地方財政への寄与を挙げている。荒尾競馬では、これまで、収益の中から同市に87億5000万円、県に3億8000万円を繰り出してきた。1998年度まで、赤字の年でも繰り出しは続いた。
馬主たちは「(繰出金のうち)少しでも競馬場改修費などに回してファンを増やしたり、場内の民有地を買収して借地料負担を無くしたりしていれば、経営は相当違っていたはず。市の無策が今日を招いた」と指摘する。
前畑市長は「責任は感じている。私が競馬組合議長をしていた県議時代も(馬主たちと)同様に主張してきた。当時の市は財政窮乏を理由に(設備投資などへの出費を)受け入れなかった」と釈明している。
競馬場は有明海に面した約25万7000平方メートル。市は来年1月、跡地の活用検討委員会を設置する。有明海湾岸道路用地、公園化、さらには発電所などの企業立地など早くも様々な意見が出始めている。過ちを繰り返さないため、徹底した総括と市民挙げての議論が必要だろう。(読売新聞)