2012年2月20日月曜日

追う 佐賀競馬 募る危機感

熊本県の荒尾競馬が昨年末で廃止され、九州でただ一つの地方競馬になった佐賀競馬(鳥栖市)。レジャーの多様化や景気低迷で売り上げが落ち込み、赤字も膨らむ。こちらも「存続の危機」にあると言えそうだ。
 九州唯一の地方競馬になった1月、佐賀競馬の売り上げは前年同月より9・6%増えた。佐賀競馬場の窓口や県内などにある専用馬券発売所での売り上げは落ちたが、それ以外の場外発売所が伸びた。
 売り上げの傾向から見ると、荒尾のファンが大挙して佐賀を訪れるようになったとは想像しがたい。
 佐賀競馬は県と鳥栖市でつくる県競馬組合が運営する。組合の渕上忠博管理課長は「荒尾廃止の影響は長期的に見ないとわからない」と話している。
 これまで協力関係にあった佐賀と荒尾。レース開催日が重ならないよう佐賀が土日、荒尾が平日にし、互いに馬券を委託販売してきた。荒尾で販売された佐賀競馬の馬券は2010年度は約12億7千万円。佐賀の売り上げ全体の1割を超えている。
 荒尾競馬場ではレースが開かれなくなったが、佐賀競馬などの馬券販売は12年度から専門の会社が引き継ぐことになった。この会社との契約期間は1年。佐賀競馬側は継続を強く働きかけていく考えだ。
 荒尾の廃止で、競走馬が増えるという好ましい変化も出ている。佐賀、荒尾とも競走馬が少ないのが悩みの種で、これを補うために互いの馬を派遣しあう交流レースをしていた。
 廃止に伴って荒尾から約100頭が移籍して佐賀が抱える競走馬は約560頭に増えた。1レースの出走馬を増やすだけでなく、「先行逃げ切り」「長距離に強い」など、さまざまなタイプの馬を組み合わせることもでき、レースの見どころが増えた。
 とはいえ、娯楽の多様化や長引く景気低迷、ファンの高齢化など佐賀競馬を取り巻く厳しい環境は、大きく変わりそうにない。
 佐賀競馬の売り上げは1991年度の359億円をピークに減る傾向が続く。2010年度は104億円になり、ピークの3分の1以下だ。今年度は12日までで、前年同期比2%増。大幅な伸びは見込めない。
 何とか競馬場を訪れる人を増やそうと、有名な馬や騎手を抱える中央競馬との交流レースやファン参加のイベントを開いてきた。
 一方、賞金や出走手当を見直し、人件費削減も進めてきたが、98年度以降は赤字基調が続く。10年度末の累積赤字は約2億5千万円に達している。
 県競馬組合は、翌年度分の収入を組み入れて赤字を補填(ほ・てん)するなど苦しいやり繰りが続く。組合の監査委員は10年度の決算審査意見書で「佐賀競馬そのものの存続にもかかわる状況に直面している」と厳しい指摘をしている。
 競馬を所管する農林水産省は、厳しい地方競馬の経営改善につなげるため競馬法改正案をまとめた。予想が当たった人が受け取る払戻金の割合は馬券の売り上げの約75%だが、これを事業者が一定の範囲で決められるようにする。
 払戻率を下げれば手元に残るお金が増える。経営にはプラスになりそうだが、客離れが起きかねない。逆に上げると人気は出そうだが、さらに経営が苦しくなる恐れもあり、事業者は難しい判断を迫られる。
 改正案は今国会にも提出される見込みだが、県競馬組合は「法改正もすんでいない段階なので、まだ対応は検討していない」と慎重だ。
 この記事の取材を始めた後にまとまった競馬法改正案。一部事業者の強い要請があったと聞く。インターネットで馬券を買うファンは、払戻率を下げた地方競馬には見向きもしなくなるだろう。ネット販売が比重を高めている中、払戻率の設定を誤ると致命傷になりかねないと思うのだが。(朝日新聞)