2009年11月24日火曜日

ゴールなき競走馬不況 アイルランド 買い手激減でレース中止

 米金融大手リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)からわずか2週間後の昨年9月月末、アイルランドで競走馬セリ最大手のゴフスは毎年恒例の「ゴフス・ミリオンセール」を例年通り開いたが、今年はできず、それが最後の開催になってしまった。
 ゴフスのヘンリー・ビービー最高経営責任者(CEO)は、ダブリン近郊の同社本社で、「競走馬は金があってこそ買えるもの。去年の時だって、そういうものを取引する時期じゃなかった」と振り返った。
 アイルランド・サラブレッド生産者協会(ITBA)が出した今月4日付のリポートによると、アイルランド産競走馬の落札頭数はこの2年で65%減少し、種牡馬の種付け料も急落。今年、英国クラシック2冠と仏凱旋(がいせん)門賞を制し、すでに引退して種牡馬となったシーザスターズの種付け料も、好況時に見込める額の4分の3近くにまで引き下げられている。
 国営の競走馬生産牧場、アイリッシュ・ナショナルスタッドのジュリー・リンチ氏は、競走馬市場が落ち込みから脱するまであと3年はかかると見込んでいる。
 ITBAによれば、競走馬取引の市場規模は年間総額11億ユーロ(約1469億円)以上で、アイルランドのブリーダーは欧州の競走馬の42%を生産している。だが過去10年間アイルランドの経済成長を後押ししてきた不動産市場が低迷し、アイルランドの今年の国内総生産(GDP)は前年比7.5%縮小する見通し。競走馬などに手を出す余裕はだれにもないのだ。
 「顧客のかなり多くはアイルランドの高度成長に乗っていた人たちだった」とリンチ氏。馬主になるのはITや不動産開発業界の人が多かったといい、それらの業界が不振なだけに先行きへの不安を口にした。
 シーザスターズは今年、英2000ギニー、英ダービー、凱旋門賞を史上初めてワンシーズンで制し、欧州年度代表馬を決定する09年度カルティエ賞にも選出された。種付け料は8万5000ユーロだが、調教師のジョン・オックス氏は引退時期がもう少し早ければ10~12万ユーロにはなっただろうと述べ「世界でトップクラスの種牡馬が引退するには間が悪かった」と話す。
 ゴフス・ミリオンセールは05年から毎年秋に開かれており、同セール出身馬は1年後、セール同日に開催される1着賞金100万ユーロの「ミリオンレース」に出走することができる。
 アイリッシュ・ダービーに次ぐ大規模な競馬イベントであるゴフス・ミリオンレースには、毎年1万人以上の観客が集まり、会場の「一番オシャレな女性」に2万ユーロの賞金が贈られるファッション・コンテストまで行われていた。後援は仏高級ブランドのエルメス・インターナショナルだ。
 しかしリーマン破綻直後の08年9月に開かれたゴフス・ミリオンセールでは、落札総額が3240万ユーロと前年から40%も落ち込み、1頭あたりの平均落札価格も7万2652ユーロと3分の1以上下落。ゴフスは3月31日までの1年間で、310万ユーロの赤字を計上している。
 この情勢を受け、ゴフスは今年からミリオンセールとレースの開催を断念。同社のエイミア・マルハーン氏は年次報告書で「馬を買おうという意気込みが市場にそれほど感じられなくなった」ためだと説明している。
 競馬情報サイトのアイルランド・サラブレッド・マーケティングによると、アイルランドの競走馬の落札総額は02年総計1億1200万ユーロ、06年には1億9100万ユーロに達したが、その後の08年には9950万ユーロでほぼ半減している。
 ゴフスのビービーCEOは「競走馬業界は昔から景気とともに浮き沈みしてきた。昨年は劇的に下落したということだ」と語った。(ビジネス・アイ)