このほど届いた「JBBA NEWS」3月号に、「2008年度実績・軽種馬の生産費」と題するデータが記載されている。
これはかなり以前より、中央競馬会の委託を受けて中央畜産会(東京都千代田区、小里貞利会長)が実施している調査で、全国より35牧場、計83頭分の生産費用について平均18.5か月間にわたる期間について項目ごとに計算し、平均値を割り出したものである。
35牧場のうち、北海道は31牧場、うち日高は27牧場となっている。もちろん、どこの牧場がモデルになっているかは明らかにされていない。
ただし、日高の27牧場のうち、いくつかは私も知っている牧場である。かなり乱暴に共通項を挙げるとすれば、「経営内容が比較的良く、且つ、データの提供に協力的な牧場」と言えるだろう。サンプルとして十分に“使える数値”を提供してもらわなければそもそも意味がないわけで、その意味でも、どの牧場に協力を仰ぐかはかなり重要な課題でもある。
さて、この2008年度版の調査結果によれば、サラブレッド1頭当たりの生産費用は全国平均で約631万円であった。北海道では640万5862円、そして日高では637万828円となっている。
これは前年の調査時よりも率にして5.6%(37万5855円)の減少となっているものの、依然として高い水準で推移していることが分かる。
生産費用のうち、もっとも大きな割合になっているのが、他ならぬ種付け料である。全国平均で206万9360円、北海道では213万5805円、日高では214万6948円で、生産原価に占める割合は三分の一を超える。
次に割合の高いのは、労働費で、全国平均136万9279円。北海道でも日高でも大きな差はなく、いずれも130万円台である。
その他では、繁殖牝馬償却費(54万6423円)、飼料費(37万4062円)、建物費(償却費と修繕費を合わせて24万3135円)、管理用具費(償却費と修繕費を合わせて33万560円)、獣医師料医薬品費14万9433円、といったところが大きな項目として挙げられる。
これらの項目のうち、変動の大きなものは、やはり種付け料であろう。無料で配合できる種牡馬から、ディープインパクトの900万円まで相当に幅が広いため、種付け料にどれだけ投資するかによって生産原価は大幅に変わってくる。
ただし、平均的な配合をイメージすると、種付け料200万円~250万円クラスといえば、今年の種付け料では、アルカセット、ステイゴールド、ロージズインメイ、メイショウサムソン、チチカステナンゴ、タニノギムレット、デュランダル、ダンスインザダークあたりが該当するだろうか。1頭当たり200万円として5頭いれば1000万円である。この出費は生産者にとって決して小さなものではなく、とりわけ生産馬の販売価格が伸び悩む昨今ではなおのこと大きな負担となって台所を直撃している。
631万円を投じてサラブレッド1頭を生産しても、それだけの価格で販売できなければマーケットブリーダーは成り立たない。現実問題として、日高の市場における落札馬の平均価格はこの生産原価に届かない場合が多いため、不足する分はどの項目かを削る必要が出てくる。
その最たるものは、労働費である。
飼料費、獣医師医薬品費、繁殖牝馬償却費、建物費、管理用具費などを削減する前に、自分の労賃を計算せずに生産活動を行うことになり勝ちなのだ。約137万円の労働費のうち、家族労働費は107万円。ここがしばしば「ただ働き」になってしまうのである。
こうして、項目ごとに検証して行くと、やはり種付け料の割合が突出している。オーナーブリーダーが自らの服色で競馬に供するのならばまだしも、マーケットブリーダーが販売を目的としてサラブレッドを生産する場合において、配合種牡馬はかなり重要だから、ほとんど不可避的に「それなりのレベルの種牡馬」を選定せざるを得ない。理論的には、ただ同然で入手した繁殖牝馬に同程度の種牡馬を配合すれば、原価はかなり抑制できる計算だが、それでは実際に販売する時、著しく不利であることは言うまでもない。
ともあれ、依然として生産者が厳しい牧場経営を強いられていることを実証するデータではある。(Net-keiba.com)