2010年3月17日水曜日

岩手競馬 見えぬゴール体力勝負 コスト削減限界


 岩手競馬の再生3年目のシーズンが年度末で終わる。赤字になったら廃止する条件の中、発売額に応じてコストを削る手法で、3年連続の黒字は確保できた。ただ、肝心の売り上げは減少に歯止めがかからず、関係者は今も不安と背中合わせの日々を送る。再生から発展へ。ゴールはまだ見えてこない。

<いつまで持つか>
 「毎朝続けていた厩務(きゅうむ)員の賄いをやめた。みんなを焼き肉に誘うこともなくなった」。奥州市の菅原ふみえさん(55)は、この3年間を寂しげに振り返る。厩舎のおかみさんとして22年間を過ごしたが、今が一番大変と感じている。
 夫の右吉さん(55)は水沢競馬場の調教師。厩舎はこの3年で8人いた厩務員が5人に、給料は20万円から17万円に減った。出走手当などが削られ、馬主が払う馬の預託料も賞金の減額に伴い満額は支払われていない。
 経営は厳しさを増すばかり。ふみえさんは「収入なりの生活をすればいい」と気丈に言うが、右吉さんは「今のままではいつ廃止になっても不思議ではない」と漏らす。
 2007年3月、岩手競馬は盛岡競馬場建設の借入金など約330億円の累積債務を抱え、岩手県などの融資をめぐって存廃に揺れた。新しい再建計画の下、単年度収支均衡が存続条件となり、コスト削減の実施も決まった。
 関係者で負担を分かち合う手法は、経営を確実なものにしたように見えた。だが、コスト削減は3年で計7回に上り、「いつまで持ちこたえられるか」との声も出始めた。

<最悪のシナリオ>
 「再生元年」の07年度と09年度の発売額などの実績は表の通り。県競馬組合と業務の一部を担う県競馬振興公社のスリム化などが進む一方で、騎手や馬などが減った。1990年代には680億円超の売り上げを記録し、今も南関東、兵庫に次ぐ規模を誇る地方競馬の雄も、レジャーの多様化や不景気に苦しむ。
 このままでは最悪のシナリオが待つ。コスト削減で賞金が減り、馬が集まらなくなると、レースの魅力は低下する。ファンは離れ、売り上げが落ち、また賞金が減らされる…。馬も人も去った後には巨額の債務と無用の施設しか残らない。
 県競馬組合の宮一夫副管理者は「売り上げの回復を待つか、今より経費が少ない運営方法を探すしかない」と言う。投資のための借金ができない中、組織は薄暮競馬の実施など改革に努めた。

<危機感にじむ県>
 一方、県職員が幹部に名を連ねる県競馬組合には「お役所仕事」との批判の声も上がる。事務方トップの副管理者は3年で次々変わり、現在は3人目だ。
 08年度に模索した民間委託拡大は頓挫した後、手を上げる企業はない。競馬場を盛岡か水沢のどちらか一つにする1場体制への移行も、残す競馬場の厩舎整備への投資や廃止競馬場の解体費が負担となるほか、何よりも事業の縮小を招きかねない。
 県競馬組合管理者の達増拓也知事は2月、「経営改善などのための新たな投資が必要」として、財源確保の方策を検討する考えを示した。存続条件見直しの議論に発展しかねない発言は、知事の危機感の表れでもある。
 11日、水沢競馬場の場外馬券売り場。前日の雪が残る中、300人のファンが各地の競走をモニターで楽しんだ。「目の前を駆ける馬の姿が楽しみ。それが見られるのは県内で岩手競馬だけだ」。北上市の男性(66)は競馬存続を強く願った。
 本年度は20~22日と27~29日の特別開催でレースを終える。ファンの声援を支えに岩手競馬は4月3日、新たなシーズンを迎える。(河北新報)