名馬オグリキャップを生んだ「笠松競馬」(岐阜県笠松町)が財政難に陥り、存廃を巡って揺れている。運営する岐阜県地方競馬組合は、赤字転落回避のため、賞金・出走手当の最大4割カットを含む支出削減案を示したが、調教師ら現場関係者は猛反発している。公営ギャンブルは「自治体の財源」でしかないのか、それとも「スポーツ・文化」なのか--。行政と現場のすれ違いが根底に横たわっている。
「のめる数字ではない」。今月8日の会議で、県地方競馬組合が示した支出削減案に県厩務(きゅうむ)員共済会の中村弘会長が大きな不満を示した。県調騎会の後藤保会長も「これ以上賞金・手当を削られたら、馬主が馬を置いてくれなくなる」と難色を示した。
財政難にあえぐ笠松競馬は、過去に累積赤字を出したことはない。しかし、今年度は売上額が過去最低の108億円まで落ち込む可能性があり、組合の財政調整基金がついに底をつく状況に追い込まれている。
組合の最大構成団体である岐阜県は、施設整備の借金返済用に積み立てた基金の取り崩しや県予算の投入には否定的だ。古田肇知事は「笠松競馬の廃止ありきではなく、存続の道を探りたい」と言う。だが、県幹部は「公営ギャンブルは本来、自治体の財政を助けるための存在。県費で維持するのは本末転倒だ」と漏らす。
一方、後藤・県調騎会会長の妻で、調教師らの家族で作る「愛馬会」代表の後藤美千代さん(56)は「競馬は生き物を通じて感動を見せてくれるスポーツ。文化でもある」と訴える。笠松競馬には多数の名馬、名騎手を生んだ歴史と知名度がある。美千代さんは「財政に貢献できなくなったから、手も差し伸べないなんて」と嘆く。
組合は今月から、競馬場周辺の住民を招待する体験イベントを始めた。10日のイベントで初めて馬券を買った岐阜市の主婦(56)は、予想した馬が追い上げると歓声を上げた。「追い上げる馬がかっこよかった」「当たると楽しい」と友人(54)と興奮気味に話していた。
元県職員でかつては競馬と無縁だった朝倉芳夫・組合管理者代行は「笠松競馬の娯楽としての魅力や、観光・地域資源としての価値を広く伝えることが存続のカギを握る。きっかけがないと競馬の面白さは分からない。皆が残したいと思うようにするしかない」と話している。(毎日新聞)