2010年11月30日火曜日
祝儀、アラブ懐かしく
「あの馬、元気だろ。毛のつやも足運びも良い。今日はやってくれるよ」。福山市営競馬場1階の馬券売り場近くの専用ブースで、勝ち馬の予想を販売する「予想屋・友ちゃん」こと友滝慧(さとし)(68)は少し笑いながら、「友ちゃん予想」と書かれた縦3センチ、横5センチの白い紙を半分に折り曲げ、取り囲む常連客に手渡していった。料金は1レース100円。紙を受け取った客は、中に書かれた1〜3着予想の馬番を確認すると、馬券売り場に急ぐ。レース開始間際になると、友滝は落ち着いた様子で、ゲートが開くのを待った。
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市競馬事務局から、場内で予想の販売が認められている「予想屋」4人の中の1人。元は騎手だった。3年ほど馬の背にまたがったが、減量が難しくなったこともあり、20歳代で引退。ほかの仕事を始めたが、「馬を見続けたい」と休日や祝日になると競馬場に足を運び、予想屋を始めるようになった。
騎手の経験を持つだけに、客からも注目され、1980年代後半のバブル経済華やかなりし頃には、ブースの前に長蛇の列ができ、面白いほど予想が売れたという。
配当の大きな、万馬券を当てた時には、予想料以外に、数万円の“ご祝儀”が振る舞われたことも懐かしい思い出だ。だから重賞レースになると、自然と気合が入った。
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別の仕事も続けていたが、当時は予想屋だけで十分食べていけた。しかし、2005年のサラブレッド導入以降、予想は格段に難しくなったという。
福山市営競馬は1949年の開設当初からアラブ馬が主役だった。80年代には700頭以上が在籍し、「アラブ王国」とまで呼ばれていたが、日本中央競馬会(JRA)のアラブ馬撤退などで生産数が減少したことを受け、レースを維持するために、サラブレッドを出場させることになった。
「思いもよらないレース展開で、1番人気が最下位、大穴が1着ということもよくある」と友滝は困惑気味に話す。サラブレッドは気分屋の面もあり、出走前に登場するパドックで調子良く見えても、コースに出ると全くスピードが出ず、大味なレース展開になることも多いという。アラブ馬で長年培ってきた経験と勘がなかなか通用しにくくなったと感じている。
「実力伯仲の駆け引きや攻防は、アラブ馬だけの時のほうが面白かった」。アラブ全盛期を振り返りながら、ため息をもらす。
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客もそれぞれ。「自分で予想しないと、勝ってもうれしくない」と語る20歳代の男性客のように、予想屋の姿を横目に、馬券売り場に向かうファンは多い。
一方で、「友ちゃん、頼むわ」「友ちゃん、次はどんなかの」と、予想をあてにしてやってくる客もまだまだ多い。
レース出走前に下見しようと、パドックのそばに立つと、自然になじみの顔が周囲に集まってきた。「毎レース、毎レース、生で見ているから、馬のことが分かる」。真剣なまなざしをパドックに向けた。(読売新聞)
【写真】予想を求める常連客らに囲まれる友滝(福山市営競馬場で)
<馬券> 正式名称は勝ち馬投票券。1着を予想する単勝、3着までに入る馬を当てる複勝(出走馬が7頭以下の場合は2着以内)、上位3着を着順通りに予想する3連単、上位3着を着順に限らず当てる3連複などの方式がある。JR福山駅前など福山市内3か所に設置する専用場外発売所やインターネットでの投票も可能。