2012年8月12日日曜日

佐賀競馬3年ぶり黒字 経営安定へ工夫必要


 苦しい経営が続く鳥栖市の佐賀競馬の2011年度決算は、3年ぶりの単年度黒字となる見通しだ。しかし、経営が「自転車操業」の状況にあることには変わりない。安定した収入を確保するために、新たなファンの獲得を目指す取り組みが求められている。
 「九州の各高速道を接続する鳥栖ジャンクションに近い良い立地で、馬を間近に見ることもでき、子どもたちも喜ぶ。ただ、もう少し明るい雰囲気だったら来やすいのですが……」。7月下旬、競馬ファンの夫(32)とともに、2歳と4歳の女児を連れて佐賀競馬場を訪れた長崎県佐世保市の主婦(33)は、施設の印象について、こう語った。
 同競馬場は1972年に、佐賀市から現在地へ移転し、県と鳥栖市でつくる県競馬組合が運営している。組合は97年度までに、総額で県に約176億円、同市に約38億円の配分金を交付するなど、自治体財源の一翼を担ってきた。
 だが、バブル景気の崩壊とともに、レジャーの多様化やギャンブル離れを背景にして、売り上げは落ち込んだ。2006年度には最大35億円の積み立てがあった基金が底をついたほか、10年度には累積赤字額が約2億4800万円にまで拡大。競馬場(本場)への来場者数も、ピーク時の1997年度の1日平均約7100人から昨年度は約3300人と半減以下となっている。
 2011年度の決算概要では、歳入の柱となる馬券売り上げは、本場での発売成績が前年度比8・2%減と大幅に落ち込んだが、インターネット販売の好調さを受けて、前年度比ほぼ横ばいの約102億円を確保した。歳出面では馬主らに支払う賞金や手当を同比で約15%削減するなど、歳出削減を行い、約3400万円の単年度黒字を計上した。累積赤字は圧縮されたものの、同組合は「景気の先行きが不透明で、売り上げは今後も厳しい状況が続く」と危機感を募らせている。
 経営安定化のためには、経費節減に加え、新たなファン層の開拓や、競馬場の魅力作りが欠かせない。
 最大25億円の累積赤字を抱えながらも、経費削減などの経営改善により09年度に実質収支が黒字に転じた浦和競馬(さいたま市)。近隣の地方競馬場との連携に加え、外注していた施設内のカーペットの張り替えから場内の草取り、花壇の設置に至るまで、職員ができることは自前で取り組むなど、徹底的な経費節減に取り組んだ。
 また、開催日以外は、子どもたちがサッカーをしたり、近所の住民が散歩をしたりできるように場内を公園として開放している。
 運営する埼玉県浦和競馬組合の菅野明雄総務課長は「馬券売り上げに直結しなくても、これまで競馬に親しんでいなかった人や若い世代が将来的に興味を持ってもらうように工夫してきた」と振り返る。地方競馬全国協会の留守悟企画部長も「インターネット販売は伸び悩む傾向にあり、本場のにぎわいを取り戻す努力が不可欠」としている。
 佐賀競馬は、昨年12月に荒尾競馬(熊本県荒尾市)が廃止されたことで、九州唯一の地方競馬場となった。
 余暇社会学が専門の江戸川大学の米村恵子教授は「カップルや家族連れが親しみを持てる場として演出し、ギャンブルだけが目的ではないライトなファンを増やすことが重要だ」と指摘する。ギャンブル場としての独特なイメージを払拭し、九州唯一の地方競馬場として、来場者や地元住民が気軽に親しめる施設への脱却を図ることが、経営改善の第一歩となりそうだ。(よみうりしんぶん)

【写真】経営改善に向けて模索が続く佐賀競馬場