2013年5月11日土曜日

競馬法改正「テラ銭操作OK」はパンドラの箱か…ますます開く中央・地方格差の“皮肉”


テラ銭アップか、それとも…。存廃でゆれる名古屋競馬

 昨年の競馬法改正によって、主催者が払戻率を加減できるようになった。増収に直結する「テラ銭」(配当の中から一定の割合で主催側が受け取る金)アップOKという画期的な改正なのだが、赤字に苦しむ地方競馬サイドの反応は意外に鈍い。払戻率ダウンで客が来なくなってはと及び腰なのだ。貧すれば…か。逆に経営が盤石なJRAは機敏に反応し、さらなる増収へ意欲満々だ。

JRAはテラ銭操作へ意欲

 日本中央競馬会(JRA)は先ごろ、定例記者会見の席上で馬券種別ごとに払戻率の変えることを検討している-と明らかにした。現在の払い戻し率はおおむね75%。これを馬券によって70~80%まで動かすことを考えているという。この場合の「検討」は決定とほぼ同義だろう。定例会見で公表したことを覆した前例はほとんどないから。近いうちに実施になるはずだ。
 「外国では当たりにくいものは(払戻率が)低く、当たりやすいものは高くなっている」という担当理事のコメントを素直に解釈すれば、JRAでも払戻率は的中率の低いWIN5や3連単で下げ(払戻金ダウン=テラ銭アップ)、逆に的中率の高い単勝、複勝は上げる(払戻金アップ=テラ銭ダウン)ことになりそう。緩急をつけることでファンの購買欲を刺激しようというわけだ。
 もう少し詳しく言うと、現在は、ファンが売り場やネットで馬券を買った瞬間に胴元=JRAによって25%の「テラ銭」がさっぴかれている。もちろん、それが必要経費や賞金などに当てられるわけだが、25%というのは諸外国に比べてけっこう高い。実はそこまで高率でなくても競馬は開催可能である。
 今回のように5%テラ銭をダウンさせても問題ないのだ。種別によって30%までアップさせれば、全体の帳尻も合う。

画期的な競馬法改正だったが

 ギャンブル御法度の風潮の日本で、中央・地方競馬が例外的に存在を認められている根拠は競馬法だ。そこに定められた算式に基づき「払戻率75%」が決められてきた。その競馬法が昨年6月、一部改正。主催者の裁量で70~80%の範囲内で自由に設定できるようになった。
 今回のJRAの動きはこの改正によるものだ。
 もっとも、法改正は黒字JRAではなく、赤字の地方競馬を救済するための動きだった。各地で相次いでいる地方競馬の廃止の流れにストップをかけようという国の援助の手。払戻率を下げる=つまりテラ銭をアップさせれば、同じ売り上げでも実入りが多くなり、経営がラクになるだろうというわけ。
 それに対してまっさきにJRAが食いついて、テラ銭ダウンで購買欲を刺激するという逆パターンの振興策を切り出してきたのは皮肉ではあるが。

地方競馬の反応は鈍く

 では、本来のターゲットである地方競馬はどんな動きを見せているか?
 名古屋競馬(名古屋市港区)は累積赤字40億円超。岐阜県(笠松競馬)と連携して番組を運営しており、ファン数も多く、他地方の競馬に比べるとまだ体力はある方だが、愛知県、名古屋市などの主催者サイドは、ずいぶん前から存廃を論議してきた。というより、なるべく早く廃止したいという意思をあからさまにしてきた。
 先ごろ行われた経営改革委員会でも「今年度中の黒字が存続の最低条件」などと高いハードルを課した。それに対して、競馬組合側は「来年度から払戻率を現行75%から70%へ下げれば4億5600万円の黒字に転換し、5年で15億円の黒字が見込まれる」との試算を示し、存続を訴えた。
 競馬法改正を“正しく”利用したまっとうな意見に思われるのだが、委員会は「払戻率の引き下げに頼らず、経費節減の徹底で黒字化を」とニベもなかった。
 同競馬の売り上げは約150億円(2011年度)。単純計算でテラ銭25%なら約38億円の実入り、同30%にアップすれば約45億円へ収入増だ。十分に経営改善の切り札になるだろう。
 もっとも経営改革委員会の言い分に根拠はなくもない。組合の試算はテラ銭アップでも客足は衰えない(前年度比98%)という楽観的見込みに立脚していた。これに対して、委員会側は配当金が減ればファン離れが進んで、売り上げそのものが減るという悲観的な見方をとっている。
 急速にファンが離れている現在の地方競馬の惨状を考えれば、悲観的な方が正しい道が見えるかもしれない。つまるところ、競馬法の改正も地方競馬救済の切り札にはなり得なかったということなのか。
 では、冒頭のJRAはどうか? あちらはいかに売り上げ減とはいえ、先週のNHKマイルCでも入場者数は6万人を超えたようにファン離れとまではいかない。法改正による払戻率引き下げでさらなるファン呼び込みも不可能じゃないだろう。黒字JRAはますます栄え、赤字の地方は…。格差社会とはいいながら、もの悲しい結論だが。(産経ニュース)