2013年8月6日火曜日

標高1600メートルの草競馬に8000人が熱狂

高ボッチ高原では全国から集まった
腕自慢による熱戦が繰り広げられた

 中央競馬で2つの重賞が行われていた4日、長野県塩尻市の高ボッチ高原(標高約1600メートル)で、日本最高峰の草競馬「高ボッチ高原観光草競馬」の第60回記念大会が行われた。長野以外にも愛知や三重など、全国から93頭のサラブレッドとポニーがエントリー。ディープインパクト産駒のソルデマーヨなど元競走馬が多数登場した上、小学生を含む一般参加者に交じってプロ騎手も参加。1周約400メートルの手作りダートコースで熱戦を繰り広げた。 野草と森林に覆われた標高1600メートルの高原にも、人々を熱狂させる競馬があった。開会式直前の午前8時半時点で約500台収容の駐車場はほぼ満車。丸太でできた外ラチは大観衆に覆われ、逆走するポニーで笑いが起こり、ゴール前の接戦では「差せ!」と中央競馬さながらの歓声が飛んだ。サラブレッド、ポニー、中間種の27レース。最終的に同日の函館競馬を上回る約8000人が来場した。 戦後間もない1952年(昭27)に、農家の娯楽の一環として農耕馬で行われた大会も60回を数えた。節目の1日は沸きに沸いた。予選レースから、はるか前方の一般参加者を強烈な追い出しで猛追する赤黒縦じま、青袖の勝負服が登場。観客席から「誰? 誰?」のざわめきを浴びた主は、金沢競馬リーディングの吉原寛人騎手(29)。「金沢で指導している『ちびうま団』の子とポニーが出場するので来ました。草競馬は初めてですが、コーナーで馬を45度くらい倒さなきゃいけないコースも雰囲気も全部楽しいです」と全力騎乗で会場を盛り上げた。 川崎競馬からも佐藤博紀(34)郷間勇太(24)田中涼(19)の各騎手が参戦。最終レースを勝ったのも、高知競馬でハルウララの主戦を務めていた古川文貴元騎手(35)だった。「引退後は飲食店に勤務したんですが、馬に乗りたくて三重の牧場に転職し、今は全国の草競馬で乗っています。こんな山の上で競馬をやるので驚きましたが、アップダウンが激しく面白い。来年も来たいですね」と意欲を見せる。 一般参加者も負けてはいない。メーンレースのひとつ、塩尻市観光協会会長賞(2000メートル)では、愛知県知多郡の大学1年生、深谷健太さん(19)が逃げる吉原騎手をゴール前で競り落として優勝した。「相手があの吉原さんだったので、一生の思い出になりました」と会心のガッツポーズ。日頃は地域の祭りを中心に馬に乗る草競馬騎手。「9月29日に地元でおまんと(駆け馬)祭りがあるので、そっちも頑張ります!」と笑顔がはじけた。 参加者には畜産農家も含まれるが、大半は会社員などの傍らに趣味で馬を管理する個人オーナー。ポニーの陸くん(せん7)と愛知県から来場した木場田義政さん(64)は「普段は河川敷で走らせているから、こうして思い切り走らせてあげるのが何よりの楽しみ。毎年、ここに来ないと盆が来ないよ」と語る。塩尻市経済事業部ブランド観光課の小嶋正則課長(57)は「一時は衰退もしましたが、馬主のみなさんの協力があっての60回。ありがたいです」と頭を下げる。優勝賞金はなく、配られるのは名産のワインなど。それでも名誉と喜びを感じるために、毎年馬運車に愛馬を乗せ、全国から参加者が集う。標高1マイルの高地にも、確かな“競馬”が根付いている。(日刊スポーツ)