2010年5月27日木曜日

落馬で失明…隻眼騎手復帰

 “奇跡”のジョッキーが29日、高知競馬に1年1カ月ぶりに帰ってくる。09年5月の落馬事故で左目を失明するハンディを負いながら、懸命のリハビリで同競馬のトップジョッキー宮川実騎手(28)がレースに復帰する。騎手にとって、命とも言える目の片方を失いながらも不屈の闘志で、再び栄光への道を目指す。

 ついに復活の時が来た。「これで第1歩が踏み出せそうですね。今はレースで乗れることが本当にうれしいです」。29日の復帰を前に、宮川実騎手は晴れ晴れとした様子で今の思いを口にした。

 同騎手はデビュー以来、順調に勝利を重ね、毎年リーディング上位にランクされる高知競馬のトップジョッキーだった。高知競馬を代表するレース、黒船賞(統一G3)では09年、JRAの強豪馬を相手にフサイチバルドルを3着に好走させたほど。国民的アイドルとなった113連敗馬ハルウララにも、03年に1度騎乗経験(4着)がある。

 しかし、順風満帆だった騎手生活に悪夢が襲ったのは09年5月2日だった。故障した騎乗馬から落馬した際、左顔面骨折と左目失明の重傷を負った。片方の目を失うと視界が狭まり、距離感もつかみにくくなるなど騎手生命にかかわる大問題。周囲は引退を覚悟した。

 しかし、本人は少しも引退は考えていなかった。「(師匠の打越)先生から、以前に片方の目だけで騎乗している騎手がいたことを聞いていた。このままじゃ終われないし、この悔しさ、はがゆさを復帰して晴らすことばかり考えていました」。リハビリと治療を重ね、3カ月後の8月には調教騎乗を再開し、復帰に備え始めた。今月初めにようやく担当医から完治の証明が出されると、騎手免許を発行する地方競馬全国協会(地全協)が立ち会う中、模擬レースに騎乗。レースでの騎乗にも支障なしと判断され、念願の復帰にゴーサインが出た。

 1年1カ月ぶりのレースに向け、毎朝の調教にも力が入る。「復帰してからも大変なことは多いし、挫折しそうになることもあるだろうけど、同じような障害を抱えている人の励みになれるように頑張りたいし、また黒船賞のような全国区のレースで乗りたい」。騎手生命の危機を乗り切った不屈の男が29日、騎手人生第2章の幕を開ける。(日刊スポーツ)