2008年11月2日日曜日

決裂の波紋:岩手競馬の行方/1 築けなかった信頼 /岩手

◇守秘義務で平行線
 盛岡競馬場内の県競馬組合事務所に10月14日夕、宅配便が届いた。組合が民間委託交渉の相手である日本ユニシス(東京)に求めていた、競走体系や収支計画など3項目の回答だった。だが、届いた文書はA4判1枚のみ。枚数もさることながら収支計画が示されていない内容に、組合幹部は「これしか出してくれなかったか」とつぶやいた。5月下旬から協議を開始して以降、最初で最後の文書。信頼関係を築けなかった両者を物語っていた。
 両者で協議を始めた直後の5月末に秘密保持(守秘義務)契約が問題になった。ユニシスは民間のノウハウが漏れることを防ぐため、構成団体である県や盛岡、奥州両市へ開示する場合は、ユニシスへの事前の承諾を得るよう求めた。しかし、組合は構成団体の議会などへの説明責任を理由に拒否。この問題が尾を引き、具体的な協議にはほとんど入れなかった。
 全国の競馬で初めて運営に民間会社が参加したばんえい競馬。主催者の北海道帯広市とソフトバンク系列の関連会社との間で守秘義務契約を結んだ。それを巡り協議が難航することはなかった。同市ばんえい振興室は「存続のために相手の意向に合わせる形で進めた」と市が歩み寄ったことを明かす。
 両者はわずか3カ月間で民間委託を締結。初の試みにもかかわらず、短期間で締結できた背景には、同市や旭川市など4市などによるプロジェクトチームが、競馬事業の規模縮小による体制の見直しなどをあらかじめ検討したことが大きいという。その「青写真」を基に民間委託に向けて協議をしていった。
 岩手競馬では、両者に歩み寄りはみられなかった。9月末には県競馬組合議会から組合に対し、知事によるトップ交渉などを行うよう要請文を出したが実現せず、委託への気持ちがあるのか不信を強めた。一方で、守秘義務にこだわって具体案を出さなかったり、一部報道に出た内容を会議の場で否定するユニシスの姿勢に、厩舎(きゅうしゃ)関係者らは「発言が信用できない」(熊谷昇・県調騎会会長)などと不信を募らせ、そのままタイムリミットを迎えた。
 ある競馬関係者は冷ややかだ。「最終期限が近づいてからは、互いに決裂した場合の責任のなすり合い。岩手競馬のことを本当に考えているのか疑いたくなる」=つづく
    ◇
 「来年度からの民間委託は実施しない」。県競馬組合は日本ユニシスへの包括的な民間委託を見送り、来季は現行方式で実施することを決めた。1月の公募に始まり、有識者らによる選定委員会を経て5月下旬から半年間協議したが、不完全燃焼のまま幕を閉じた。約10カ月に及ぶ“民間委託騒動”で浮き彫りとなった民間委託の課題や競馬再生への可能性などを探った。(毎日新聞)