2011年12月13日火曜日

養老牧場:引退馬に幸せな余生を 八重樫美織さん、賛同者協力受け那須に/栃木

◇殺処分知り「救いたい」
 年老いた競走馬の多くが殺処分される運命にあるのを知った女性が、馬を引き取る「功労馬の余生牧場」を那須町に開いた。八重樫美織さん(37)。23日には熊本県荒尾市の地方競馬・荒尾競馬場が最終レースを迎え廃止される。「走るだけ走らせて殺されるなんて」と、できるだけたくさんの馬を引き取ろうと努めている。【中村藍】
 「ほら、食べなよ」。青草を詰め込んだバケツを置き、元競走馬のフジサイレンスを優しくなでた。東日本大震災で被災した福島県南相馬市の馬主から引き取った馬だ。約6万平方メートルの牧場には馬5頭が身を寄せる。牧場名は好きだった競走馬からもらって「ブレーヴ・ステイブル」にした。
 今年で開設12年目になる埼玉県ときがわ町の養老牧場「ときがわホースケアガーデン」によると、引退馬を引き取る牧場は全国に20カ所ほどあるが、生産される馬の頭数に対してまだまだ足りないのが現状だという。
 八重樫さんは幼いころ、両親に連れられ訪れた牧場で馬と触れ合い、それから馬が好きになった。短大卒業後、さいたま市で歯科助手になったが、休日には早起きして東京都内の競馬場に出かけ、パドックを最前列で眺めていた。ある日、ひいきの馬を見なくなった。後で殺処分されたと知った。胸が締め付けられた。同時に、引退馬の余生をみる牧場の運営に思いが募った。
 仕事の傍ら、埼玉県内の牧場で研修を始めた。昨年、「スエヒロコマンダーを助けて」というファンが来た。通算4億円以上の賞金を獲得した名馬だが、すでに引退が決まり、殺処分の可能性があるという。「私が引き取る」と即決し、まず岩手県の牧場へ移した。歯科助手の仕事は辞めた。知人から那須町の牧場を借り、この夏、養老牧場の開設にこぎつけた。賛同者がボランティアやスタッフとなり、今は10人で馬や他の動物を世話している。
 今、心配なのは荒尾競馬場の約280頭の競走馬の行方だ。同競馬場の関係者は「馬のレベルが低く、他の競馬場に移って十分に走れる可能性は少ない。馬主も経済的なゆとりがなく、大部分が殺処分になるのでは」と話す。八重樫さんは馬主や関係者と交渉し、2頭の引き取りが決まった。今後も牧場のスペースが許す限り受け入れに努めるという。「命を大事にする手本となるような牧場に育てたい」と八重樫さん。もちろん、スエヒロコマンダーもここで幸せな余生を送っている。(Yahooニュース)